マルサ(査察)は、今-⑭-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から

***13.マルサの恫喝・詐欺と依頼者の変節

 翌日、朝8時すぎに嫌疑者からホテルに電話があった。約束の8時半には急用ができて行くことができなくなった、10時半にして欲しいというのである。

 後に判明したことであるが、この時間に査察から呼び出しがかかっていたのである。「修正申告による税額を1億3,000万円から半分の6,000万円に切り下げて譲歩した。これ以上の話し合いはできない。この線で修正申告に応じないならば話し合いは中断する。修正申告をしてもらわなくても結構だ。」 このようなことを査察から申し向けられたものと思われる。またしても恫喝である。しかも、税金が半分になったとしても、査察が捏造したデータはそのままだ。嫌疑者を騙して、払わなくともよい税金をムシリ取ろうとしている。詐欺である。

 午前10時半、私達はホテルのロビーで話し合いを始めた。嫌疑者の様子がおかしい。
 私に対する態度が高飛車になり、顔付きが鬼の形相になっている。見事なまでの変節である。この嫌疑者は、中年の女性、一夜にして夜叉に変身といったところだ。
 夜叉と化したこの女性、肝腎の修正申告をどうするかということを差し置いて、いきなり私との契約のことを持ち出してきた。この時点で、契約のやり直しをしてくれというのである。
 新しい契約書を作成して準備している。法律の専門家の手が入った契約書だ。弁護士と入念な打ち合わせをしてきたものとみえる。

「この契約に変えて欲しい。これで駄目であれば、他の税理士に頼むことになる。新しい契約金額の10分の1以下の報酬でも修正申告の代理をしてくれる税理士がいる。」

 驚いたことに、私と交した契約の解除を匂わせてきた。私などご用済みだと言わんばかりだ。元の契約金額よりは少なくなるが、それでも他の税理士が引き受けてくれる金額の10倍以上支払うのだから文句はないだろう、と言っているのである。
 職業会計人、つまり職人を自負している私は、プロとしての仕事を完全に仕上げることに生き甲斐を感じている男だ。その他大勢の税理士と同列に扱われたことで私の自尊心がいたく傷ついた。
 告発されるおそれが完全に払拭された、しかも当初提示されていた税金が1億3,000万円から半分の6,000万円に切り下げられた。これから後は山根がいなくとも構わない。逆に、山根がこれ以上査察を刺激するとどうなるか分からない。告発が復活するかもしれない。告発されるおそれが完全に払拭された以上、かえって山根がいない方が好都合だ。
 このようなことを考えた末のことであろうか、私に対する態度が一変し、金だけは支払ってやるから自分の言う通りに契約を変更しろ、言う通りにしなければ契約の解除をするまでだと迫ってきた。
 こうなったら私は駄目である。年甲斐もなく切れてしまった。職人のプライドが許さない。

「私は手を引きますから、どなたか他の税理士さんに後をお願いなさって下さい。報酬はいただかなくとも結構です。」

 以上、納税者を脅したり騙したりして税金を捲き上げるだけでなく、脱税犯に仕立て上げる査察(マルサ)について、具体的に詳しくその悪辣な手口を公開してきた。ここで取り上げた二人の査察官(実名)は、国家公務員として堂々と自ら犯罪行為に手を染めた。証拠捏造と恐喝、詐欺である。
 しかし、狙われた納税者にも問題の一端があるかもしれない。金が全て、金儲けのためなら何でもするといった金の亡者が査察のターゲットになり易いようだからだ。人との約束、信義などは破るために存在するとでも思っている人達だ。
 もちろん、査察の被害者は、このような金の亡者ばかりではない。約束事を誠実に守る人達が存在することも事実だ。一度の仕事の縁で長くお付き合いしている人達は全てそうである。
 問題はネット経由で来る依頼者である。依頼者の中には、私を利用するだけ利用して、後は野となれ、といった輩がいるのである。ネット社会の恐さである。ここで取り上げた嫌疑者(女性)もその一人だ。中には、ヤクザのような怪しげな税理士(「齋藤義典税理士」)を手先に使って、用済みになった私を脅しにかかる手合いもいる。(『「悪徳税理士」の弁』参照)
 片や犯罪行為が常習化している査察(マルサ)とか料調を相手にし、片や約束を平気で破る銭ゲバを相手にする職業会計人、思えば何とも因果な仕事人である。

(この項おわり)

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 ここで一句。

“下手な字の省の名板大臣書” -呉、定年誤

 

(毎日新聞、平成24年9月21日付、仲畑流万能川柳より)

(防衛省。タテマエとホンネが違う代表格。能書では似つかわしくないのかも。)

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