マルサ(査察)は、今-⑩-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から
- 2012.09.25
- 山根治blog
**9.修正申告の慫慂-(2)
刑事告発されることを極度に恐れていた嫌疑者としては、取り敢えず税金さえ納めれば刑事告発を見送る方針であると言われたことから気分的にいくぶんか楽になった。
しかし、不正所得が1億2,000万円であれば告発基準を超えている。修正申告を出した後で告発される可能性がない訳ではない。知り合いの税理士とか弁護士も、告発が100%回避されるとは言ってくれない。1億3,000万円もの税金を支払った上に、なお告発という不安の種を抱えることになるのではないか。
それに何人かの税理士に相談してみても、査察が決めた不正所得の額については、普通の税務調査とは異なり、交渉の余地がないであろうと、口を揃えて言っている。一体、どうしたらいいものか。
嫌疑者から相談を受けた私は、内容を分析し、引き受けることのできる事案かどうか検討した。
その結果、査察が提示している不正所得1億2,000万円、納税額1億3,000万円という金額は、交渉によって少なくとも納税額が2分の1にまでカットできる見込みをつけた。これが可能であれば、納税額が6,000万円強となり、告発の不安は完全ではないまでもほぼ除去される。
これは、査察が1億2,000万円の不正所得を社長に対する役員賞与認定しようとしているのをやめてもらうだけでよい。嫌疑者からの話を聴く限り、1億2,000万円が簿外預金に流れていたというのは、査察の見当違いの判断のようであり、仮に簿外預金でないとすれば、役員賞与認定のしようがなくなるからだ。
以上のことを具体的な数字で示して嫌疑者に説明した。査察が言っている、5年間の不正所得1億2,000万円をベースにした、税額1億3,000万円の計算内訳は、次の通りである。
尚、不正所得の年度別内訳についてはこの時点では査察から示されていないので、仮に、
^^t
^平成19年××月期
^rr^20,000,000円
^^
^平成20年××月期
^rr^20,000,000円
^^
^平成21年××月期
^rr^25,000,000円
^^
^平成22年××月期
^rr^25,000,000円
^^
^平成23年××月期
^rr^30,000,000円
^^
^cc^合計
^rr^120,000,000円
^^/
として計算した。
1.法人税の税額試算は次の通りであり、その額は63,853,900円となる。
法人税の税額試算(PDF)
2.所得税の税額試算は次の通りであり、その額は65,989,900円となる。
所得税の税額試算(PDF)
3.上記1.2.によって、法人税、所得税の合算税額は、
となる。
上記1.2.の税額試算はそれぞれの合計表であり、5年分の内訳明細を合わせて12枚となった。上記の計算で分かるように、仮に役員賞与認定が外れることになれば、2.の所得税分の65,989,900円がゼロとなり、1.の法人税分の63,853,900円だけになる。この計算は嫌疑者と契約を結ぶに先立って行ない、計算明細書12枚を説明の上で手渡している。
このケースに限らず、査察とか料調の立会・交渉の契約については、成功報酬を原則としているため、国税当局との交渉開始時点の状況と概ねの結着見通しを示して、嫌疑者に私の仕事の内容と契約の意味合いを理解してもらうことにしている。
私は、ベタベタの脱税で弁明の余地がない事案については引き受けることはしない。黒を白にすることなどできるはずがないからであり、成功報酬を建前としている以上、成功(仕事の達成)が初めから絶望的であれば、業務報酬を得ることができないからだ。職業会計人としての職人を自任している私としては、仕事の達成が何よりも肝腎であって、それが望めないのであれば、仕事として引き受けることができないのである。
ただ現実問題として、私のところに寄せられる相談では、100%の脱税というのはまずない。詳しく話を聴いていくと、査察(料調)がどこかでオカシナことをしている。杜撰(ずさん)な事実認定をしたり、計算をゴマかしているのが多いのである。いい加減な推計計算をしたり、法で許されていない推定をしたり、証拠の捏造をしたりして、追徴税額を膨らませているケースがほとんどだ。
本件の場合、そのどれもが該当するようであり、5年間の不正所得自体、大幅にカットできる可能性があった。
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
“「73に分けてくれ」「もう無理ですね」” -交野、大沼章
(人並みに頭頂部がスケてきた。思い切って丸坊主にして3ヶ月。気分は50年前の高校・大学時代に逆戻り。)
-
前の記事
マルサ(査察)は、今-⑨-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から 2012.09.18
-
次の記事
マルサ(査察)は、今-⑪-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から 2012.10.02