高松国税局-恐喝と詐欺による天下り-①

 週刊ポスト(「大阪国税局の犯罪-暴力組織としての“資料調査課”」参照)に続いて、週刊朝日(2012年3月9日号)が、高松国税局がらみのスキャンダルを報じている。『“黒革の手帖”元ホステスが暴露、国税職員と産廃企業社長の癒着』と題する記事だ。国税職員、産廃企業社長はともに実名で報道され、執筆した記者も実名だ。「国税職員が、税務調査された会社にウラ指南し、その見返りに多額の現金を受け取り、その会社に天下りさせてもらった」
というもので、「世の中には奇妙な「縁」がある。国税に査察され、逮捕に怯えていた産廃企業グループ社長の窮地を救ったのは、元ホステスだった。社長側近、国税職員両者の愛人だった女性は、双方へ情報を流し、社長から5千万円の謝礼と月30万円の手当などを受け取ったという。女性の仲介で国税職員はその後、破格の待遇で同社へ天下るが、男たちの誤算は女性が“黒革の手帖”と膨大な録音テープをずっと持っていたことだった。」と要約されている。

 5ページに及ぶ記事に目を通してみたところ、どこかオカシイ。“ウラ指南”とか“査察”とか“逮捕に怯えていた社長の窮地を救った”とかいうのは、当事者がそのように思っていただけでのことではないか、公務員による不正行為があったことは事実であるにしても、客観的な情況は少し違うのではないか。
 たしかに、週刊朝日の女性記者は丹念な取材をしているようであるし、それぞれの当事者、中でも元ホステスの証言そのものは正確に記述されているものと思われる。ところが、記事の内容が全て事実であると仮定すると、全体のつじつまが合わない。腑に落ちないのである。

 記事の中で私がもっとも不審に思ったのは、査察を受けていたとする点だ。本当に査察であったのか、首を傾(かし)げざるを得ないのである。
 何故か。記事によれば、この税務職員は現在54才、2006年7月に退官、国税OB税理士として松山市内で税理士事務所を構え、ウラ指南した会社に会計参与として天下り、月額120万円もの法外な報酬を受け取っている。相場の20倍超、破格である。この人物がウラ指南をして多額の現金を受け取ったとされるのは8年前の2004年、当時の肩書は「高松国税局課税部法人課税課筆頭課長補佐」である。
 この人物は記者の直撃取材を受けて次のように話している。

「その会社(記事では実名)に税務調査があり、その話を彼女(注.元ホステス)としたのは事実である。「もう終らせたい」と会社が言っているというので、調査担当に「どないなっとるん?向こうはスムーズに終わらせてほしいと言っているよ」と伝えた。私は当時、全体を見ていた。彼女を通じ、その会社へ『国税の指示に従って修正しろ』とアドバイスしました。当時、その会社の社長(記事では実名)が逮捕されるという状況じゃなかったと思う。」

 私が不審に思った第一は、この人物のポジションだ。高松国税局の課税部法人課税課、課長補佐となっている。ちなみに、記事では筆頭課長補佐となっているが、高松国税局だけでなく、全国の国税局において、“筆頭”課長補佐という官職はない。筆頭だけは余分なものだ。記事に添えられている名刺の写真にも筆頭などついていない。この人物が自らの力を誇示するために、元ホステスに喋ったのであろう。水増しである。
 さて、このポジション、査察とは関係ないし、査察もどきの調査をする「資料調査課」(俗にリョウチョウ)とも関係がない(「大阪国税局の犯罪-暴力組織としての“資料調査課”」参照)。ごく普通の通常の任意調査を担っているだけだ。
 この人物、「私は当時、全体を見ていた」と喋っているが、この「全体」とはあくまでも、高松国税局管内法人の任意調査の全体ということであろう。彼は犯罪捜査である査察について知る立場にないからだ。
 また、本当に査察であるならば、会社がいくら「もう終らせたい」と望んでも犯則(脱税)の嫌疑が晴れない以上できることではない。更に、この人物が調査担当者に対して、「どないなっとるん?向こうはスムーズに終らせてほしいと言っているよ」と伝えたことになっているが、このようなことを週刊誌の記者に言うはずがない。査察のモミ消し工作を自白したに等しいからだ。
 加えて、「彼女を通じて、『国税の指示に従って修正しろ』とアドバイスしました」というのであるが、修正に応じたからといって査察が中止になる訳でもない。

 いずれにせよ、この会社がその当時強制調査である査察を受けていたというのは、事実に反することではないか。仮に査察でなかったとすれば、この税務職員が行なったことは、元ホステスが言っているようなウラ指南でもなければ、週刊誌記者が指弾するように、国税職員と特定企業の、手心を加えるという意味での“癒着”でもないことになる。
 本当のところは一体何であったのか、この国税OB税理士が元ホステスとグルになって一体何をしたのか。このような疑問を追及していくと、これまで多くの国税OB税理士が、納税者を騙して多額の報酬を受け取ってきた実情の一端、即ち、恫喝を背景にした詐欺によって、納税者を食いものにしてきた国税OB税理士の実情が浮かび上がってくる。ヤクザのミカジメ料と変るところはない。国家権力を背景にしているだけに、ヤクザよりむしろ悪質だ。査察とか逮捕をチラつかせて納税者を極度の不安に陥れ、救世主のようなフリをして会社にもぐり込む、いわば恐喝と詐欺による天下りである。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“有識者以外はいったい何ンなんだ” -春日、江口隕石

 

(毎日新聞、平成24年1月6日付、仲畑流万能川柳より)

(気にすることはありません。有識者とは仲間うちでお互いに呼び合っているだけのもの。役に立たない知識を持ってはいるが、知恵のない人達の呼称。学校秀才のナレの果て。)

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