脱税摘発の現場から-9

***9.税制の抜け穴

 これまで私は、脱税事件において冤罪がしばしば見受けられる原因として次の3つ、即ち、

+司法制度におけるチェック機能の不全

+税務職員の調査能力の劣化・職業倫理の欠如と、国家公務員の無責任体制

+いびつな税理士制度

を挙げ、中でもとくに問題なのは3.のいびつな税理士制度であり、税理士制度には2つの欠陥があることを指摘した。税理士会への強制加入制と税理士業務の無償独占性の2つである。この2つは単なる欠陥であるにとどまらず、納税者に多大な害悪を及ぼすガンであると述べ、2つとも直ちに廃止すべきであると論じてきた。

たしかに、この2つのガンが取り除かれるならば、納税者の権利擁護の観点からは望ましいことだ。この2つに絞ってでも、できるだけ早く税理士制度の見直しがなされるべきである。
では、この2つのガンが取り除かれることなく居座っている限り、納税者あるいは税理士としては手を拱(こまぬ)いているほか、なすすべがないであろうか。傍若無人の振る舞いをする税務当局に屈し、税務当局の下請けに堕している税理士に頼るしか他に方法がないのであろうか。あるいは、がんじがらめに縛られている税理士は、誇りある職業会計人としての信念を押し通し、憲法で保障されている納税者の権利を擁護することができないのであろうか。
窮すれば通ずという。あるいは窮鼠猫を食(は)むともいう。納税者の義務(納税義務)に重点を置き、納税者の権利については一部形式的に定めるのみで、ほとんど蔑(ないがし)ろにしてきた日本の税制にあって、一つだけ抜け道があったのである。

この50年にわたって、税理士法を含む日本の税制は、大蔵省(現在は財務省)と自民党の税制調査会の意のままに構築されてきた。しかも、自民党の税制調査会は、インナーと称する一握りのボス的存在によって牛耳られ、その結果、世界でも類を見ない複雑怪奇な税制に仕上がった。この人達は、納税者の権利などほとんど省みることなく、しかも、徴税にあたって文句をつける者が入り込む余地をふさいだ上で、取りやすいところから税金をとるために、膨大な量の法律を作ってきた。それに伴う、施行令、規則、通達、コンメンタールに至っては気が遠くなるほどの量である。しかも法文の難解さは他に類を見ないものであり、専門の税理士でさえ持て余し気味である。
自民党から民主党に政権が移行して一年、納税者の権利に関しては基本的に全く変っていない。

複雑怪奇な税制。とても素人の手に負えるシロモノではない。いきおい専門家に頼ることになる。国は、税金の専門家を税理士に限定し、税理士でなければ税金の仕事をしてはいけないと法律で定めた。税理士法である。
この税理士法、徴税側からすれば、極めて使い勝手のいいものだ。国民に文句をつけられることなく、できるだけスムーズに必要な税収を確保するために作り上げられた法律であると言ってよい。7万人の税理士は国税庁の下請け機関、いわば別働隊として位置づけられており、税理士としては納税者のために働こうと思っても思ったようにはできないように税理士法によって仕組まれている。
しかし、上手(じょうず)の手から水が漏れるように、一つだけ抜け穴があった。税理士の存在を有名無実のものとし、納税者の権利については封印しようとした税理士法ではあるが、納税者が自らの権利を主張するための礎(いしずえ)が一つだけ残されていた。いわば、税制の抜け穴であり抜け道である。

(この項つづく)

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ここで一句。

“妻と犬 オレが呼んでも すぐ来ない” -佐伯、イリコ。

(毎日新聞、平成22年8月23日付、仲畑流万能川柳より)

(当然です。主人が家来に従うわけがない。)

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