脱税摘発の現場から-5
- 2010.08.10
- 山根治blog
***5.隠れマルサ-料調の実態(承前)
この半年ほどで受けた料調事案の相談は3件であった。東京国税局、名古屋国税局、広島国税局、それぞれの資料調査課による調査である。
3件のうちの1件は、調査開始直後の相談であったために、立会を引き受けて料調側と十分に話し合いができたことから、料調側が突きつけてきた脱漏額を大幅に削減することができただけでなく、不正認定もゼロとすることができた。立会人と料調との信頼関係が早い段階で構築できたことが大きかった。
残りの2件は調査終盤での相談であった。一件については立会を引き受けたものの、料調側との話し合いが全くできなかった。すでに修正申告の慫慂(しょうよう。そうする方が君のためだと言って勧めること-新明解国語辞典)が期限付きでなされており、2回にわたって国税局まで出向いて交渉を行なってみたものの、全く聴く耳を持たぬといった状況であった。門前払いである。
予告されていた期限が過ぎた直後に、青色申告取消処分と更正処分・重加算税賦課決定処分がなされたために、直ちに異議申立て、国税不服審判所への審査請求を行なったのはいうまでもない。
案の定、国税側から改めて示されたそれぞれの処分理由は、「厳格な証明」どころか直ちにウソが判明するようなオソマツ極まりないものであった。この国税局は東京国税局であるが、この局の料調はズサンな調査を一方的に行なった挙句、明らかに事実に反すること(つまり、物証によって事実に反することが証明できること)を、平然として公文書である通知書に書き込んでいるのである。
2回の交渉と異議申立てにかかる調査において出会った東京国税局の料調の人達は、合わせて7人、うち3人は主査の肩書を持っていた。料調のやることに文句をつけるとは何ごとだと言わんばかりの横柄な態度が印象的であった。
中でも一人の主査は、
と、威丈高に言い放った。
今一つの事案は、相談は受けたものの、実際の立会に入ることはできなかった。これまた料調から最後通牒を突きつけられており、国税OBの4人の顧問税理士と税務裁判に明るいと自称する複数の弁護士からのアドバイスを受け入れて、修正申告の慫慂に応じることになった。
かわるがわるこのように説得されて、金で済むことならと不承不承応じたのがことの真相である。
この案件については納税者側から数時間にわたって詳細な事情説明を受け、その後、日を改めて社長とはじっくりと話し合ったのであるが、私の判断によれば、料調が突きつけていた脱漏所得のほとんどが課税対象になるものではなく、仮装・隠ぺい行為(不正行為)にいたっては皆無であった。
脱税ではないのに脱税だと脅され、そもそも課税対象にならないものに課税するといって騙されて、料調の間違った言い分に屈する羽目になる背景には顧問税理士の存在がある。査察と同様に、脱税の摘発を目的としている料調に直面した場合、納税者以上に大変な思いをするのが顧問税理士だ。脱税を指南した、あるいは指南しないまでも知っていて黙認したのではないかと疑われ、脱税の共犯とか税理士法違反をチラつかされて脅されるからである。納税者が責任を少しでも逃れようとして、顧問税理士の指導を受けたとか、あるいは相談をして了解を受けていたなどと供述したらそれこそ大変である。それだけで税理士が逮捕されることがあるからだ。
これまでも数多くの税理士・会計士が納税者の一方的な供述だけで逮捕されており、最近でも名古屋在住の税理士が納税者のウソの供述によって逮捕され、200日余り拘留された挙句刑事法廷に引きずり出されたことがあった。この場合は幸いにも無罪の判決を得て決着したものの、逮捕・拘留されたデメリットは図り知れないものがある。(尚、この事例については、「脱税指南事件、2審も無罪 検察側の控訴を棄却」を参照のこと)
私の知り合いの税理士・会計士で、顧問先が脱税の摘発を受けた際に、国税当局から恫喝されて極度のノイローゼ状態に陥り、仕事の意欲を喪失して廃業を余儀なくされたのが2人いる。その心痛は並大抵のものではなかったようである。
このような現実があることから、顧問先が脱税摘発の対象になった場合、さわらぬ神に崇りなしとばかりに知らぬ存ぜぬを押し通して逃げてしまう税理士・会計士が多いのが実際のところだ。逃げないで対応する場合でも、できるだけ自分達に火の粉がかかってこないようにするために、査察とか料調の代弁者となって納税者を説得して、なんとか素直に税金を払わせて穏便にことを運ぼうとするのである。納税者が理不尽な不利益を受けることよりも、まず自分達の身の安全を図るということだ。保身である。
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ここで一句。
(タラとレバ、負けた碁仇、負けてない)
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