元特捜部長の暴言

 12月27日(日)日本テレビ『真相報道バンキシャ』で、コメンテーターの河上和雄氏がとんでもないことを言い放った。鳩山総理が同日明らかにした、“母親から2002年以降の7年間で提供された12億6,000万円を贈与されたとして、約6億円の贈与税を納付した”ことを受けてのコメントである。

 河上氏は、鳩山氏の行為を贈与税の脱税と断定し、脱税、脱税と繰り返した上に、あろうことか、母親の鳩山安子さんまで批判する始末である。理不尽な暴言である。河上氏は常日頃何にでも口をはさみ、訳知り顔でピント外れのことを得意気に喋る御仁ではあるが、このたびだけは聞き流すことができなかった。いやしくも一国の総理に対して、脱税をしたと明言、つまり破廉恥な犯罪人呼ばわりしたからだ。しかも、「元東京地検特捜部長」という肩書きを付した上での発言であるだけに聞き捨てにするわけにはいかない。

 河上氏の脱税発言が何故暴言であるか。この時点で明らかにされた事実から判断する限り、脱税どころか、そもそも課税の対象になるものであるかさえ、はっきりしない事案だからである。鳩山氏が自発的に7年分の申告をしただけの話で、仮に申告しなかった場合、果して国税当局は更正処分さえ可能であったかどうか疑わしいものだ。

 贈与税の脱税については、相続税法68条で、

「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」

と定められている、れっきとした犯罪だ。鳩山総理の行為がこの規定に該当するものとは今の時点では到底考えられない。
 プライベートな席で冗談として発せられた発言であればまだしも、公共の電波を使って、しかも、元特捜部長の肩書を振り回している人物が発したのであるから単なる失言で済む話ではない。名誉毀損の対象ともなりうる暴言であり、妄言だ。

 河上氏のこのたびの暴言は、税法の勝手解釈によるものだ。あるいは、税法の無知によるものであると言ってよい。ことは河上氏一個人の妄言にとどまらない。このところ日本の検察全体がおかしいのである。この権力集団は、贈与税に限らず、法人税、所得税についても、余りにも無知であり、勝手気ままに脱税犯を量産しているのではないか。税法に無知な権力集団が、強大な権限を振り回して、無辜(むこ)の人達を脱税犯に仕立て上げ断罪しているのではないか。
 私自身が経験した冤罪事件だけでなく、このところ全国各地から寄せられてくる事案を見ても、何故このようなものが立件対象になるのか首を傾げたくなるものが多いのである。国税当局とタッグマッチを組んだ国家暴力そのものの現実が余りにもひどいということだ。ブレーキの壊れた暴走車、その生々しい実態と対抗策については、稿を改めて詳しく述べる予定である。

***【河上和雄氏のプロフィール】
-1933年 生まれ。
-1956年 東京大学法学部卒。
-1958年 検事任官。
-1983年 東京地検特捜部長。
-1989年 最高検公安部長。
-1991年 退官。弁護士登録。
 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“日航の 再建策は 「金おくれ」”  -行田、ひろちゃん。

 

(毎日新聞、平成21年12月22日付、仲畑流万能川柳より)

(日航は 自民政治の 置きみやげ。)

***【追記】
 「元特捜部長の暴言(追記)」を公開しました。(2010-01-06)

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