八ツ場(やんば)ダムの中止と税金ドロボー-3

5.9月23日に現地を視察した前原誠司国土交通相に対して、地元の大沢正明群馬県知事が次のように噛み付いたという。
『1995年に地元の町が事業推進の協定書を国と締結した時、鳩山由紀夫さん、前原さんらは自社さ政権で与党だった。政権が代わったからといって国が一方的に中止することはありえない。ダム建設は国と地方の約束のはずだ。』(平成21年9月29日付、山陰中央新報)
 この知事の発言にはピント外れの誤りが2つある。

一つは、知事の無知に基づくものだ。公共事業の評価に客観的な評価方法としての費用対効果(B/C)の考えが導入されたのは、1996年。自社さ政権より後の橋本内閣の時である。政策評価法(行政機関が行う政策の評価に関する法律)が施行され、B/C評価が義務付けられたのは2002年。更に後の小泉内閣の時だ。
 つまり、自社さ政権の時には公共事業に対しての客観的な評価方法は存在していなかった。長年自民党政権下で行われてきた恣意的なやり方で公共工事が決定され実施されていたということだ。
 行財政改革に精力的に取り組んだ橋本内閣によって、客観的評価法としてのB/Cが取り入れられ、その6年後の小泉内閣の時に法律として制定された。ところが、法律が制定され施行されたものの、国土交通省によって間違った運用が繰り返され、自公政権は国交省のインチキを黙認してきたというのが実情である。
 以上により、自社さ政権としては国交省のインチキを客観的にチェックする方策なり基準が備わっていなかったことから、鳩山、前原の両氏がかつて自社さ政権の一角にいたことをもって論難するのは筋違いである。

6.一昨年あたりから、B/C算定に関して国交省のインチキに気付いた民主党が国会で取り上げはじめ、道路については相当議論が深まった。
 しかし、河川・ダムのB/Cについては、いまだ検討の入口の段階であると言っていい。B/Cの基本は河川・ダムも道路と同じではあるが、算定方法を定めた『治水経済調査マニュアル』が相当以上に分かりにくいものであることから、国会議員だけでなく、国交省の担当者自身も実際のところはよく理解していないと思われるフシがある。
 この『治水経済調査マニュアル』なるもの、『公共事業評価の費用便益効果分析に関する技術指針』を踏まえて作成されている。これらについては、もっともらしい肩書きを持った10数人の学者が寄ってたかって作成しており、どうもどこかの国のお手本があって、ほとんどそのままを翻訳したかのようなシロモノである。実務の現場を熟知している専門家がほとんどタッチしていない、学者だけが頭の中で創り上げた、いわば机上の「技術指針」であり「マニュアル」の観を呈している。
 これらには、いくつかの点で誤りが見受けられるので、民主党政権ではこの誤りを是正して、よりよい指針なりマニュアルに改めることが必要である。
 ただ、国交省はこれまでは曲がりなりにも上記の「技術指針」と「マニュアル」に従ってやってきたのであるから、民主党政権としては取り敢えず、仮にこれらを正しいものとみなしてチェックする、つまり、これらの手引きを国交省がどのようにネジ曲げ、どのようなインチキを施してきたのか白日の下に晒すことだ。それぞれの公共事業のB/Cのインチキが発見され、かつ、計算し直したB/Cの値が基準値である1以下になるならば、原則として事業中止の決断を下すべきである。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“美人だと 許す男が 許せない” -宇治、はんかく志。

(毎日新聞、平成21年10月15日付、仲畑流万能川柳より)

(そう言われても。)

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