100年に1度のチャンス -30

 前回述べましたように、全世界が持っている財産の中でも知的財産だけは先陣を切って、全世界の人達の共有の財産になろうとしています。本格的なWeb時代が到来し、開発利益を一人占めする時代が終わりつつあるということです。その先鞭(せんべん)をつけたのは、リナックスであり、グーグルであり、ウィキペディアでした。

 Web時代の中核をなすのはインターネットであり、この意味からインターネットは知的財産のインフラ(インフラストラクチュア、基盤)です。道路、港湾、空港、あるいは上下水道、エネルギー供給など、社会生活を送る上での基礎的な生活基盤と同一のものと考えていいでしょう。
 インターネットというインフラはすでに存在していますので、それをどのように活用していくかその活用の仕方が求められています。どのような方法で玉石混淆の情報を選別(スクリーニング)し、選別された情報を、より効用の高い枠の中に組み入れていくか、更には、磨き上げられた情報にしかるべき意味付け(リテラシー)をしていくか、その具体的な方法が求められているのです。
 私達の国日本には、知的レベルが高く勤勉な1億3,000万人の国民がいます。日本の恵まれた気候風土は、豊かな社会生活を支え、働く活力を与えてくれます。創意工夫に得意な国民性とあいまって、目の前に確たる目標ができさえすれば、それを達成することのできる十分な能力とそれを支える社会基盤が今の日本には備わっているのです。

 情報という宝の山が、十分には開発されることなく放置されているのが現状です。
 ダイヤモンドの原石が埋まっているにも拘らず取り出されることがありません。たまたま取り出されることがあったとしても、研磨の仕方が悪いために宝石としての輝きを十分に発揮することができない、これが現在情報社会と言われているものの現実です。

 情報の中でも上記のことがピッタリと当てはまるのは、企業情報であり、行政情報です。それぞれは膨大な時間と少なからぬお金をかけて作られており、発信される情報もおびただしい量に達しています。これらの情報は、小さなパソコンさえあれば、誰でもどこにいても手に入れることができるものです。しかも、日本だけでなく、アメリカでもヨーロッパ諸国の情報でも同様です。私が住んでいる松江市においても、アメリカとかヨーロッパで発信された情報は瞬時にして入手できるのです。

 たとえば日本における企業情報の中でも信用の置けるものとしては、法律の規定に従って開示(ディスクローズ)される有価証券報告書があります。上場会社によるものが主なものですが、非上場会社も含めて現在金融庁のEDINETで開示されている会社の数は4,100社余り、まさに企業情報の宝庫、ダイヤモンドの原石がギッシリと詰まっています。
 有価証券報告書の中でもとりわけ重要な情報は財務諸表に関する情報、つまり財務情報です。この財務情報は独立した第三者であるプロフェッショナル(公認会計士)が最高レベルの保証(これを監査といいます)を与えたものですので、信頼に値するものといえます。尚、時には財務情報を歪めること(これを粉飾といいます)を黙認したり、積極的に手を貸したりする不心得な会計士がいることは事実ですが、余り気にすることはありません。私が「ホリエモンの錬金術」で明らかにしたように、会計士が会社とグルになってゴマかしていようとも、会社のインチキの実態を解明する上ではさしたる支障がないからです。つまり、一部に粉飾行為が存在するとしても、有価証券報告書をキチンと読み取っていけば、自ずから実態が顕われてくるということです。

 問題はここからです。このような企業情報の宝庫ともいうべき有価証券報告書が十分に活用されていないのです。十分に活用されていないどころではありません。私に言わせればほとんど活用されていないのです。あるいは、活用されていないのであればまだしも、誤った使い方がされているために間違った情報として発信されることがあります。この例として、トヨタ自動車の自己資本についての日経記事があります。あるいは、最近第一三共製薬がインドのランバクシー社の買収にからんで3,500億円もの損失が発生したことが報じられていますが、これについても、買収にあたっての資産査定(デューデリ)が甘すぎたことが最大の原因であると私は判断しています。ランバクシー社が公表しているアニュアルレポートを素直に読む限り、第一三共側が提示した法外な買収価格などとうてい算定することができないからです。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“有識者 知恵多すぎて まとまらず” -芦屋、みの吉。

 

(毎日新聞、平成21年4月24日付、仲畑流万能川柳より)

(知識あれども知恵足らず、井戸端会議、烏合の衆。)

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