冤罪の構図 -7

 当時、新井将敬氏は、ホームページを作り、自らの政治信条を述べると同時に、身に降りかかってきた利益供与疑惑について、具体的な証拠を開示して無実を訴えていました。『政治家はどこへ行く!日本の理念は何処へ』
『エロチックな政治』
 第一章「戦争か恋愛か」
 第二章「死にたがる男たち」
 第三章「金丸脱税事件の意味するもの」
 第四章「自己への恐怖を知れ」
『新井将敬と日興証券との会話記録』
(「新井将敬 index」より) 新井氏は何故、死に追いやられたのか、新井氏を死に至らしめたのは一体何だったのか、私自身を納得させる答えを見つけ出そうと、片っぱしから情報を集めて分析したことがまるで昨日のことのように思い出されます。

 新井氏の衝撃的な自決から2年後、一冊の書が出版されました。

「代議士の自決-新井将敬の真実」 河信基著、三一書房

 著者の河氏は、丹念な取材をベースに、道半ばにして死に追いやられた一人の政治家を愛惜し、その人物像を深く掘り下げています。韓国人同胞の著作ですが、片寄った感情的な表現はなく、冷静な視点で貫かれています。秀れた評伝であり、類(たぐ)い稀な魂に対する挽歌、あるいは志(こころざし)半ばにしてこの世を去った人物に向けての鎮魂歌といってもいいでしょう。400ページ近くの大作ですが、的確な情況分析に加えて、一息に読み通させる著者の文章力に脱帽しました。

 新井氏の人となりとその死については、河氏の力作に余すところなく書き尽くされており、新たに追加するものはありません。ここでは、冤罪という点に的を絞って、私なりにまとめてみることにいたします。とくに断らない限り、全て河氏の著作によっています。

 新井氏が逮捕訴追されようとした“疑惑”とは、一体何だったのでしょうか。一人の人物を死にまで追い込んだ疑惑とは何であったか。それは証券取引法違反、つまり法律によって禁止されている、株の利益供与を要求した、ということでした。
 証取法42条の2は、まず、証券会社は顧客の株取引の利益を保証してはならない(利益供与の禁止)とし、次に、顧客は、証券会社に対して、利益を保証するように要求してはならない(利益供与要求の禁止)としています。これに違反した場合には、証券会社等は三年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処せられ(証取法198条の3)、顧客は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処せられる(証取法200条)ことになっています。
 株取引の利益を保証せよという客からの要求がまずあって、その要求を受けた証券会社が客の要求通りに便宜を図ることを禁止するというものですが、法定刑を見ても分かるように、証券会社に重点を置いたものです。つまり、
-証券会社 … 3年以下の懲役、300万円以下の罰金
-顧客 … 1年以下の懲役、100万以下の罰金
と、法定刑が、懲役、罰金それぞれ3倍の開きがあるのです。

 「利益供与の要求」-
 新井氏が断罪されたのは、この「利益供与の要求」、平たく言えば、株でもうけさせてくれ、と要求したことでした。
 一般の客が、証券会社に対して、もうかる株はないか、とか、もうけさせてくれ、というのはよくあることです。もちろん、このような一般的な要求行為まで罰するというのではありません。
 刑事罰を科すことになる「要求」は、その範囲をぐっと絞り込み、

「積極的に市場の価格形成機能をゆがめるような行為を要求すること、あるいは、証券会社に違法行為を行うよう求めること」(平成3年9月25日、証券及び金融問題に関する特別委員会における政府側答弁)

に限定されています。ラフな言い方をすれば、悪質な要求のみが罰せられるということです。
 結局、新井氏が証券会社(この場合は日興証券です)に対して、本当にそのような要求をしたのかどうかというのがポイントになります。マスコミは当時、新井氏に関してあることないことをいろいろと書き立てて、犯罪者であるかのようなイメージを創り上げたのですが、仮に証券取引法違反というのなら、まさにこの一点に絞られることになりますので、以下、吟味してみることにいたします。

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 ここで一句。

“ディスコでは人踊らせること覚え” -福岡、龍川龍三。

(毎日新聞、平成19年7月2日号より)

(グッドウィルグループの存在を知ったのは2年前のことでした。ライブドア(当時は、オン・ザ・エッヂ)のインチキ上場に際して、光通信と一緒になって手を貸したことが判明したため、グットウィルグループの有報を5年分精査。その結果、このような会社が東証一部に堂々と上場されていることにア然呆然。(“ホリエモンの錬金術-8”、“ホリエモンの錬金術-9”参照のこと))

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