168 続・いじめの構図 -12

****その12)

 申請書を提出した後の主な経緯は次の通りであった。

  1. 平成18年10月19日、中国税理士会松江支部長による面接・審問。支部長T氏の事務所に赴き、約一時間。
  2. 平成18年11月22日、中国税理士会、登録審査委員会委員長M氏他1名による面接・審問。広島の中国税理士会に赴き、約二時間。

 1.の支部長面接においては、T氏が旧知の間柄であったこともあり、悪意のある対応はなされなかった。T氏は正規の税理士試験合格者であり、税務署OBではないため、私の登録をなんとしても阻止しようとする税理士会の意図が伝えられていなかったのであろう。T氏は、松江支部に回付されてきた添付書類の異常な多さに驚いていたほどだ。

2.の登録審査委員長面接においては、税理士会の意図が露骨に示されることとなった。申請書の自発的な取り下げが要求されたのである。M委員長は私に対して次のように申し向けた。

「近畿税理士会では執行猶予期間が終了した場合、直ちに登録申請を受け付けることはしないで、1年から2年の間、謹慎期間を置くことにしている。中国税理士会では今のところこのような取り扱いをしているわけではないが、山根の方から自発的に登録申請書の取り下げをする考えはないか。」

 M氏は、3回にわたって申請書の取り下げを要求した。近畿税理士会の取り扱いが、M氏の言う通りであるかどうか定かではない。仮に真実、そのような取り扱いがなされているとすれば、明らかに違法である。国から登録事務を委嘱されている税理士会に、登録申請書を受理するかしないかの裁量権など与えられていないからだ。申請を受け付けることは、税理士会の義務であり、受け付け自体を拒否することは、登録事務の放棄である。税理士会としては登録申請を受け付けた上で、税理士法第24条に定める登録拒否事由に該当すれば、登録を拒否すればいいのである。
 更には、いったん申請し受理されたものを、自発的に取り下げるように要求するに至っては何をか言わんやである。私は、法の規定に従って権利の行使をしようとしているのであるから、仮に権利の行使が不当なものであれば、いったん受け付けてから、登録拒否事由を明示して、登録を拒否すべきだ。
 税理士会が、このように理不尽な要求をすることは税理士法で認められていないことは当然であるが、一歩進んで、刑法第223条の強要罪に抵触するおそれはないか。

[刑法第223条]
「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対して害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。」

 思うに、税理士会の違法な要求は、現在の税務調査で頻繁になされている不当な修正申告の強要と同工異曲である。税務調査の現場で、納税者を恫喝し、払わなくてもいい税金を払わせるやり方だ。できもしない更正(こうせい。税務署長が職権で納税申告書の誤りを訂正すること)をちらつかせて、修正申告を強要するのである。まさに国家権力を背景にした恐喝以外の何ものでもないが、オブラートにくるんだような、“慫慂”(しょうよう。傍から誘いすすめること-広辞苑)という言葉でカムフラージュされているのが現実である。
 たしかに、納税者が自らすすんで修正申告を行なえば、税務署にとってこんな楽なことはない。わずらわしい手間が省けるばかりではない。本来税務的に全く問題がないことでも、納税者が誤っていたとして自発的に訂正すれば、そのまま通ってしまう。自分達の成績を達成するためには、納税者を平気で犠牲にするのである。税務署内でなされている増差競争(ぞうさきょうそう。税務調査の結果、つまり納税者の不正・誤りの金額の大きさを競わせること)が納税者に及ぼす弊害と言っていい。しかも、ひとたび修正申告したが最後、後になって例えば税務署に騙されて修正をしたことが判明した場合でも後の祭り、納税者に救済の道がないのである。
 税理士会がしつこく要求した申請の取り下げは、税務調査の現場で頻発している、このような不当な修正申告の慫慂と全く同じである。自発的に申請者自らが取り下げをしたという形式をとれば、たしかに、登録拒否事由がない場合でも、見事に税理士の登録を阻止できる訳だ。しかも自発的に取り下げる形式を取っているので、後で申請者が騙されたことに気付いて騒ぎ立てたとしても、税理士会としては知らぬ顔の半兵衛を決め込めば済む。税務調査の現場と同様、陰湿なゴマカシそのものであって、公務の遂行にあって到底許されることではない。

Loading