ホリエモンの弁解術 -3

粉飾、つまり財務諸表の虚偽記載について考えてみましょう。

まず、虚偽記載とは何か。有価証券報告書の中の財務諸表については、例えば、脚注とか勘定科目明細表の誤り・偽りなども虚偽記載にはなるのですが、こと粉飾にからめて言う場合には、専ら、会社の

1.財政状態(貸借対照表B/Sで示されます)と、

2.経営成績(損益計算書P/Lで示されます)

の表示が不適正(間違っていることです)であることを指しています。

では、不適正とはどういうことか。企業会計の根幹をなしている、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」(Generally Accepted Accounting Principles、略してGAAPガープの逐語訳的表現です)に適合していないことです。更に、ガープに適合していないことを誰がどのようにして判断するのか。上場会社の場合ですと、公認会計士が監査を行った上で、ガープに適合しているかいないかを判断して意見を表明する(これを証明といいます)ことになります。

つまり、粉飾というのは、財務諸表の表示(数字のことです)そのもの誤りのことで、その誤りであることを判断するのは、第一義的には、経営者でもなければ、弁護士、あるいは裁判官でもなく、第三者である公認会計士であるということです。経営責任者が正しいものとして提示した財務諸表を監査した上で、第三者の立場から、適正なものであるかどうかの判断を下すのが、監査人である公認会計士です。公認会計士法第2条は、財務書類の監査又は証明を会計士の業務と定め、独占的権限を与えているからです。
堀江貴文氏が、粉飾ではなかったとか、仮に粉飾であったとしても、自分は知らなかったとか、粉飾になるとは思ってもいなかったとか、法廷でも、あるいはマスコミに向けてもさかんに弁解、つまり言い繕(つくろ)いをしていますが、ナンセンスな言い訳です。粉飾とは表示された数字の誤りなのですから、オーナー社長であった堀江氏の思惑とは一切関係がないのです。決算書の数字は、開示(ディスクローズ)された時点で経営者とか会社から離れ、独立した客観的な存在、いわば社会的な存在となるからです。
この点、ライブドアの場合は監査を担当した会計士が粉飾であることを知っていながら、偽りの監査報告書を出したとされています。粉飾を知っていたどころか、更に踏み込んで粉飾のスキーム(仕組み)に会計士自ら深く関与していたとも言われているのです。

この事実は、ライブドアの監査人であった港陽監査法人が出した監査報告書の署名人の一人、田中慎一会計士が詳細な事実関係を明らかにした上で、生々しく告白しているところです(同人著、“ライブドア監査人の告白”、ダイヤモンド社刊)。
この本は昨年の5月に発行されたもので、私も早速購入して読んでみました。国策捜査、あるいは、万引のような微罪で死刑といった、ピント外れの誤った議論が横行する中で、当事者である監査人の一人が“告白”と銘打って出したものですから、一体何を喋っているのか、私の興味を引いたのです。
読んで驚きましたね。この本の中には当事者しか知りえない秘密事項が至るところで顔を出しており、公認会計士法第27条の守秘義務に抵触するのではないか、と別のことを心配しながら読み終えた覚えがあります。検察との間であるいは、事件の具体的な経緯を法廷外で公表することが予め約束されていたのではないか、検察が、当時一部のマスコミが騒ぎ立てた国策捜査という批難のホコ先をかわすために、田中さんを逮捕・訴追しない条件として、会計士の廃業と共に内部事情の公表を持ち出したのではないか、あるいは、田中会計士が自らの逮捕訴追を免れるために、自ら進んで会計士の廃業を申し出ると共に、検察に迎合する形で秘密の暴露を行ない、検察には守秘義務違反を黙認してもらうことになっていたのではないか、このようなことまで勘繰りたくなるほど秘密事項のオンパレードなのです。公表することについて、検察も事前に了解していたのであれば、なるほど、守秘義務違反(2年以下の懲役)で訴追される心配もない訳です。

いずれにせよ、ライブドアの監査責任者自らが、詳しい事実関係を述べた上で、粉飾であったことを明確に認めているのですから、粉飾であったこと自体は動かすことのできないものでしょう。
一昨年私は、“ホリエモンの錬金術-4”において、いくつかの根拠をもとに、粉飾の疑いが濃厚であることは述べたのですが、断定まではしていません。田中慎一さんが、ライブドアの監査責任者としてその内実の詳細を明らかにした段階において、そこで明らかにされた具体的な事実をもとに考えた場合、私だけでなく、他の大多数の会計士も明確に粉飾であると言い切ることができるでしょう。
つまり、ライブドアが開示した決算書は、適正なものではなく、不適正なものであった、ということです。一部の不完全な情報をもとに、企業会計とか監査実務に疎(うと)い新聞社系の雑誌記者が考えついた理屈は、世間を惑わし、特定の者に阿(おもね)る誤った屁理屈であったことが、改めて明らかになりました。

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ここで一句。

“坊ちゃんの 周りは 悪い友ばかり” -八尾、立地骨炎。

 

(毎日新聞、平成19年3月15日号より)

(内閣と後援会は悪相のオンパレード。男女共に顔は、歳と共に自分で創っていくもの。長州は利権と金で顔ゆがみ。)

 

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