162 続・いじめの構図 -6
- 2007.03.20
- 引かれ者の小唄
****その6)
最近、「徴税権力」(落合博美著、文藝春秋社刊)なる本が上梓された。国税庁の研究という副題が付されている。数多く出版されている、税務署ヨイショ本の一つである。政治権力あるいは検察権力との癒着の実態が、著者自らの体験をもとに生々しく描写されており、一見すると国税当局寄りではないような体裁をとってはいるものの、基本的には国税当局におもねり、ピント外れの礼賛をしていることに変わりない。
とりわけ気になったのは、国税当局の、著者を含む一部ジャーナリストとの癒着である。公務上知りえた秘密のタレ流し、著者と親交があったという多くの国税局職員と国税局OBは、国家公務員としての守秘義務をどこかに置き忘れているようだ。著者は彼らから秘密を聴き出したことを、ジャーナリストの手柄のように考えている節があるが、大きな勘違いではないか。それは単に、守秘義務違反行為を教唆し、幇助しているだけのことではないか。不心得な公務員による、秘密漏洩という犯罪行為に加担したと謗(そし)られても仕方ないものだ。仲間内のヒソヒソ話ならともかく、自慢そうに天下に公表すべきことではない。ジャーナリストとしての見識以前の問題である。
ただ、マスコミに対する言論抑圧の実態が著者自らの体験として語られていたり、納税者が税務署と聞くだけで怯えている現実がいくつかのケースについて活写されているのは、それらがフィクションではなく紛れもない現実であるだけに説得力をもっている。
現在の私は「徴税権力」で述べられている事実そのものは、全てその通りであろうとは認めつつも、結論において著者とは全く異なる見解を持つに至っている。多年にわたって国税当局と交渉し、対峙してきた職業会計人の立場から改めて、徴税権力について考えてみると、どうも皆が恐れ戦(おのの)いているほど大層なものではないことが判ってきたのである。この権力なるものの正体には実体がなく、単なる幻ではないか、このような想いが日増しに強くなっている。いわば、幻の徴税権力、ユウレイの正体見たり枯尾花、といったところだ。
日本が民主主義をベースとする法治国家であることに思いをいたせば、税務当局が合法的にできることは限られており、たかが知れたものである。江戸の仇は長崎式の意趣返しをはじめとする、納税者とか税理士に対する横暴なふるまいは、そのほとんどが違法行為であり、犯罪行為であると言っても過言ではない。公僕たる者が白昼堂々とできることではないのである。被害をこうむっている納税者あるいは税理士の対応策は、何も難しいことではない。公務員による違法行為を白日のもとにさらけ出すことだ。恐れることなど全くない。ナメクジに塩、あるいは化物(ばけもの)に日の光、たちまちにして幻映が揺らぎ始め、消え去ってしまうはずだ。インチキの限りを尽したライブドアが幻のように一瞬にして消え去ったのと同断である。事実を公表して、公僕としての本分を踏みにじっている不心得な役人は断固として公職から外すべきではないか。国家に巣食う、獅子身中のムシは、可及的速やかに排除されるべきであろう。
傍若無人に振舞う徴税権力、その正体の一端がこのたびの私に対するインチキ摘発で端無くも明らかになった。馬脚が現われたのである。通常の税務調査についても同様の事例が数多く見受けられるが、これについては稿を改めて詳述する。
私が二人に妥協案を提示してから後、両名は私の前に再び現われることはなく、一切の連絡を断った。その間両名が行ったことは次の三つであった。
その一つは、私の事務所のクライアントを調べまわり、なんとしても税理士法違反の告発をしようとしたことだ。反面調査である。私のもとに、いくつかの会社の社長から対応についての問い合わせがあった。私は、「とにかく、この3年間、あなたが実際に体験したことをそのまま話して下さい。包み隠すことは何もないので事実をありのまま話して下さって結構です。」と申し向け、調査に協力するように促した。
その二つは、両名が検察庁へ告発するために出向いたことである。告発はしたものの受理されなかったという。中国税理士会の役員から聞いたことである。
その三つは、私の税理士登録の審査にあたり、税理士会の審査担当者が私の件について、広島国税局まで出向き、税理士監理官である坂本昭雄氏に面談して意見を徴したところ、
と坂本氏は申し述べ、登録するのに適しくないことを示唆した。
しかし、M税理士云々の話は事実に反している。坂本氏は故意に虚偽の事実を申し述べているのである。検察へのインチキ告発は不発に終ったものの、私を税理士業界から抹殺するために、なんとしても私の税理士登録を阻止したかったのであろう。名義貸しをしていたとする偽りの供述調書が予め作成されていたので、驚いたM税理士が直ちに供述調書の訂正を申し出て、訂正がなされた、というのがことの真相である。M税理士は決して名義貸しを認めてなどいないのである。これは勿論、水掛け論ではない。M税理士とインチキ調書を作成した東京国税局担当者とのやりとりが、そのままの形で私の手許に残っている。
以上の三つの事実は、私が申し出た妥協案を無視し、踏みにじるものであった。20数名の現職の税務職員と数名の国税局OBの氏名の公表は差し控えたものの、坂本氏を含む4名の主要な人物に限って、その氏名と彼らが行った非行の一部について敢えて公表に踏み切った所以である。
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