冤罪を創る人々vol.89
- 2005.11.22
- メールマガジン
2005年11月22日 第89号 発行部数:416部
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「冤罪を創る人々」-国家暴力の現場から-
http://consul.mz-style.com/catid/11
日本一の脱税事件で逮捕起訴された公認会計士の闘いの実録。
マルサと検察が行なった捏造の実態を明らかにする。
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山根治(やまね・おさむ) 昭和17年(1942年)7月 生まれ
株式会社フォレスト・コンサルタンツ 主任コンサルタント
http://consul.mz-style.com/
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●「引かれ者の小唄」 ― 勾留の日々とその後
http://consul.mz-style.com/catid/41
「断髪 -その2」より続く
http://consul.mz-style.com/item/433
4.安部譲二氏との出会い -その後
1)その1
その日は島根大学での古文書学の授業の日であった。六十の手習
いとばかりに、一年程前から若い学生諸君と一緒に古文書の学習を
していたのである。私より二歳若い先生(相良英輔教授)から、そ
れこそ手取り足取り教えていただいたおかげで、それまでは全く意
味不明のナメクジのような筆文字が、スラスラとはいかないまでも
なんとか読めるようになっていた。
大学からオフィスに帰って、いつものようにスケジュール帳(普
通の大学ノートに線を引いて、時間と用件をメモしたもの。開業し
てから30年、私には手帳を持つ習慣がないため、オフィスと自宅
に一冊ずつノートが置いてある)に目を通したところ、なんと作家
の安部譲二さんから電話によるメッセージがあり、東京の連絡先が
記されていた。
ホームページに書いた私の記事を読み、電話をかけて下さったの
である。それは、2日前の5月24日にアップした記事であり、
「安部譲二との出会い」と題するものであった。
安部譲二との出会い
http://consul.mz-style.com/item/307
正直、驚いてしまった。まさか作家ご本人から直接電話が来ると
は思ってもみなかったからだ。しかも、記事を公表した直後である
だけに尚更である。
9年前の勾留中に作家の著作と運命的ともいえる出会いをしたこ
とについては、すでに記したところである。保釈されシャバに出て
からも作家の作品は可能な限り買い求め、愛読している。私の手許
には二十冊を超える著作が集まっているほどである。
早速東京に電話を入れてみた。時折テレビで拝聴する独特の人な
つっこい大きな声が、受話口から溢れてきた。まさに音声が溢れ出
てくるといった表現がピッタリであった。
作家は一言二言私の記事についての感想を口にするや、全く思い
がけないことを話しはじめた。
「実はね、記事に出てくる6冊のボクの本のうちで「××」は自分
が書いたものではないんだよ。元のマネージャーがボクの名前を騙
(かた)って勝手に本にしちゃったんだ。直ちに絶版にしたんだが、
巷には残っていたんだね。」
「でも」と私。「楽しく読ませていただいたのですが。」
「いやいや、あれは駄目だ。誠に申し訳ない。代わりといっちゃあ
なんだが、新刊を2冊ほど送らせてもらうよ。」
気になったので、電話が終るや直ちに自宅に帰り、書棚から作家
が指摘した「××」を取り出してページを捲(めく)ってみた。
なるほど、言われてみれば少し違うような気がしないでもない。
文章はしっかりしているものの、作家特有のユーモラスな言い回し
が見受けられないのだ。ストレートな表現が多く、全体が殺伐とし
ている。心の奥底をくすぐり、いつの間にか“安部ワールド”に引
き込んでいく何かが欠けているのである。
しかし通常、一人の作家の作品群は、必ずしも一本調子のもので
はない。バラエティーに富んでいるのが普通である。あるいはメシ
の種に週刊誌などに書き散らすものがあるかもしれない。この作品
についても作家からあのように言われなければ、新しいスタイルへ
の挑戦と考えておかしくないものだ。
いずれにせよ、この作品は私にとってはこの時点で極めて思い出
深いものとなったので、今まで以上に大切に扱っていこうと思って
いる。作家からは捨ててくれと言われたものの、なに、捨てたりな
どするものか。
(続きはWebサイトにて)
http://consul.mz-style.com/item/436
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●山根治blog (※山根治が日々考えること)
http://consul.mz-style.com/catid/21
「凛にして毅なる碩学、北野弘久先生 -1」より続く
http://consul.mz-style.com/item/434
・ 凛にして毅なる碩学、北野弘久先生 -2
「税法問題事例研究」(勁草書房)の中には、多くの鑑定意見書
がそのままの形で掲載されており、当事者と北野先生との話し合い
とか法廷における生々しい現場の雰囲気までも伝わってくるようで
す。
法学者にありがちな衒学的な言い回しは、北野先生の鑑定書には
一切ありません。極めて分かり易い明解な言葉によって組み立てら
れた文章は、一分の隙もない見事なものです。税法の基本的な事柄
に理解の及ばない無知な裁判官をなんとかして理解させようとする
ためでしょうか、噛んで含めるような言い回しが随所に見受けられ
ます。
私が特に興味を抱いたのは、私自身のケース(『冤罪を創る人々』
で詳述しました)と酷似している脱税事件に関する先生の鑑定書で
した。
それは、熊本市で産婦人科医院を開業していた伊井久雄医師が租
税逋脱犯(脱税犯のことです)として断罪された事件に関して、犯
罪(脱税)の事実そのものが存在しないことと犯罪事実についての
認識(故意のことです)が存在しないことを論証しようとして作成
された鑑定意見書です。
先生の所論の中で私がとりわけ注目したのは、経理を担当してい
た伊井医師の妻が作成した「B手帳」と称するものに関する先生の
認識についてです。
この「B手帳」というのは、大学の医局から派遣されてきた医師
などに支払う謝礼を正規の帳簿から外して管理していた別帳簿のこ
とです。当然その謝礼額に相当する額は、正規の帳簿の収入金から
除外されています。
この「B手帳」を、立件した検察官は、脱税の手段として用いら
れたウラ帳簿であると主張し、裁判官も検察官の主張をそのまま鵜
呑みにしてウラ帳簿であると認定したのですが、北野先生はこの認
定に対して真正面から異を唱えておられます。
つまり、「B手帳」は、一般に脱税の裏に存在する「B勘」と称
するウラ帳簿とは似て非なるものであって、「B手帳」も所得税法
施行規則57条1項の「正規の簿記の原則」に基づく簿記であると
論述されているのです。
たしかに税務調査の現場においては、仮に収入金の除外(俗につ
まみ申告と言っています)があった場合でも、直ちにその全てが過
少申告ということにはなりません。
除外をするのにそれなりの理由があり、その上に、除外された収
入金が事業のための経費に使われていることが明らかな場合には、
たとえ正規の帳簿に経費が計上されていなくとも税務上の経費とし
て認定されることが多いのです。
伊井医師の妻が作成し管理していた「B手帳」は、公務員である
医師などに支払う謝礼金について、公務員の立場を考慮した場合、
医院側としては正規の帳簿書類に支払先などを明記するわけにはい
かないところからやむをえず作成されたものであって、直ちに医院
側の脱税目的であるとはいえないでしょう。
更には公務員ではなくとも、名前等を伏せなければ協力してもら
えない医師もいるわけで、このような場合、源泉所得税を医院側が
負担することによって名前を伏せることは開業医の間ではままある
ことです。報酬を受け取った医師の側においては税務問題が完全に
はクリアーされているとはいえないのですが、少なくとも支払った
側の税務問題、ことに刑事罰が用意されている脱税に問われること
は考えられません。
マルサの告発の背景には、この病院の事務長の逆恨みによる密告
があったとされています。この人物は、医師の妻が妊娠中絶手術
(略称でアウスといいます)を全て正規の帳簿に記入することなく
除外して別ノートに集計し、その中から名前などを表に出すことを
嫌う外部の医師への謝礼を支払っていた事実を知っていました。
収入を除外して、そのお金をたとえば、個人的に使ったり、ある
いは密かに貯め込んでいたりするのであれば、脱税であると指弾さ
れても仕方ないでしょう。しかし、医院の業務を手伝ってくれた医
師に報酬として実際に支払い、しかも、この医師の妻は年度末には
「B手帳」の残金(除外した収入金から支払った報酬額を差し引い
た金額)を正規の帳簿にキチンと戻し入れをしていたというのです
から、脱税ということにはならないのです。
このような脱税はおろか、通常の過少申告にも該当しないことが
何故査察(マルサ)の対象になり、何故検察官によって立件され、
何故裁判官によって脱税犯罪であると決めつけられなければならな
かったのでしょうか。
この鑑定書には、日本における税徴収の現場の歪みと裁判制度に
おける運用面での歪みの一端が明確な形で示されています。
―― ―― ―― ―― ――
師の凛とした澄明性を耳でイメージして、一首。
“朝床に聞けば遙けし射水川(いみずかは) 朝漕ぎしつつ歌ふ船人”
(万葉集巻19、No.4150)
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