B05 マッチポンプ 5
- 2005.04.07
- 経済事件ノート
***(5)毒をもって毒を制す
数日が過ぎた。B税理士が会社にやってきた。
「この間の件は初めからなかったことにしてもらいました。上司である統括官に報告する前に手をうったために、なんとか揉み消すことができたんですよ。そこで約束の1000万円をいただきたいのですが、これは正式な形で受け取るわけにはいきません。会社の裏預金から出してください。当然のことながら小切手ではなく、現金でお願いします。申すまでもないことですが、会社の内部の人も含めて誰にも言わないでください。と言いますのも、私も当の税務署員も極めて危ない橋を渡っているわけで、それほどまでしてお宅の会社を守ろうとしている以上、今度は逆に社長も私を徹底的に守ってくださらなくてはいけません。
秘密を厳守するということは、私達を守ると同時に会社と社長を守ることにもなります。秘密工作が明らかになれば、今度こそ徹底的に税務調査が行われ、多額の追徴がなされるばかりか、世間に公表され、会社は癒し難いダメージを受けることになるんですからね。
つまり謝礼の1000万円の受け渡しを含めて、秘密工作はなかったことにするのが、私たちにとっても会社にとっても最善の道なのです。そこのところは、社長が官公庁の工事を受注なさるのに裏でいろいろと手をうたれるのと同じことです。」
D社長は1000万円の現金をB税理士に渡してから一人ほくそえんだ。
-1000万円なんて安いものだ。B税理士のやつは全部つかんでいないようだが、この3年間でごまかした税金は1億円は優に超えるだろう。それを考えれば1000万円なんてどうってことはない。
それにしてもあいつはオレの弱みにつけこんで、1000万円まきあげやがった。相当のワルだ。
毒をもって毒を制すというわけか。常日頃、税務署は自分の古巣だから顔がきくと言っていたが、やっぱり裏には裏があるもんだ。蛇(じゃ)の道は蛇(へび)といったところか。
毎月10万円の捨てブチを払って飼い馴らしていた甲斐があろうというものだ。
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