A15 ハニックス工業 事件の真相 15

***(10)倒産の深層

****1. 密告者の存在

平成16年9月28日、ある経済誌の編集者からハニックス工業の倒産に関して驚くべき情報がもたらされた。

同社の”脱税”を国税当局に密告した者がおり、それは同社のメインバンクであるX銀行であった、-このような噂が当時経済界の一部に広まっていたというのである。

この編集者は、同社の倒産後にX銀行の担当支店長にインタビューしている。支店長の反応は実に冷ややかなものであったという。

結局、噂の真偽は確認できなかったために、記事にしなかったという。

平成2年の同社上場時、各銀行は競って同社に融資取引等を持ちかけたに違いない。平成2年といえばバブル経済のピーク時であり、同社では公募増資による資金が200億円余りも入ってきており、しかも初値に公募価格の2倍を超える株価をつけている優良会社である。銀行の営業担当常務とか支店長の実績をアップさせる絶好の機会であり、菓子折りでも手土産に、腰を折り、もみ手をしながら会社にアプローチをしたに違いない銀行マンの姿が眼に浮かぶ。

しかし、その後バブル経済の雲行きが急に怪しくなってきた。
同社は、上場の勢いを借りて業容の拡大に乗り出したものの、バブル経済の急激な冷え込みによって、十分な需要が望めなくなった。販売に急ブレーキがかかったのである。

平成5年4月、同社が拡販のために活用していたグループ企業であるレンタル会社が4社、事実上破綻するに至る。
これを境に金融筋が同社に対して一転して厳しい眼を向けるようになったとされている。銀行にとっては、優良な融資先であった同社が、逆にやっかいな重荷となってきたのである。

こうなると、銀行は金貸しの本性を露わにする。もみ手がなくなり、折り曲げていた腰がしゃんとなり、逆に尊大にそっくり返るようになったであろう。
ある経済事件に関して松江まで私を訪ねてやってきた気鋭のジャーナリストである有森隆氏は、その著書で次のように言っている-

”銀行はバブル全盛期に、あらゆる儲け話に口を突っ込むようになった。業務上横領から無担保融資、詐欺の片棒担ぎまで何でもやった。カネ貸し屋は企業犯罪の”フィクサー”と化したのである。”(『銀行・証券・生保破局のシナリオ』有森隆著、ネスコ/文芸春秋、P.12より)

銀行のなりふりかまわない酷薄な側面が、支店長の一介のサラリーマンとしての保身行為とあいまって、表面化したのは想像に難くない。

平成五年といえば、バブル経済の崩壊が始まりつつあった時である。バブルの元凶の一つとされた銀行に対する世間の眼は厳しさを増しており、銀行バッシングが起り始めていた。
日本経済が全体的に不況に向かう中で、急激に業績が悪化しつつあった同社が、早晩破綻するに違いないと判断したのは、金融サイドとしてはむしろ当然のことであったろう。
しかし、銀行バッシングの最中、同社の倒産の引き金を銀行自らは引きたくない。自らの手を汚さずに同社に引導を渡すもっともらしい大義名分はないものか、-
このような経緯から、国税当局への”脱税”密告がなされたのではないか。国税当局が、銀行というカネ貸し屋に利用されたのではないか。

 

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