071 基本構図の崩壊 ― 自滅

****5)基本構図の崩壊 ― 自滅

一、 マルサと検察とは私を断罪するために、虚偽のシナリオを作成し、国家暴力を背景に強引に実行に移した。

彼らは、多くの無辜の人間を逮捕、あるいは逮捕をちらつかせて、脅したり、すかしたり、騙したりして嘘の自白を引き出して、もっともらしい供述調書を作成した。

更には、証拠の捏造、あるいは改竄までが組織ぐるみで実行された。正義の砦が犯罪行為をしたのである。

二、 しかし、彼らが創作し、捏造した厖大な量の証拠は、私を断罪するのにほとんど完璧のようであったが、一つだけ致命的な欠陥を持っていた。
それは、真実ではないということであった。

三、 虚偽の証拠が多くなればなるほど、それらは一人歩きをし、あちらこちらで摩擦を引き起し、互いに消耗して自滅していった。
私達、被告人弁護側は、凶暴な暴力集団に対して、ほとんどなすすべもなく無力であったが、一つだけ強力な武器を持っていた。
それは、真実という名の武器であった。

四、 私は、強大な権力を背景にした暴力集団のなすがままになるほど柔順ではなかった。彼らに蹂躙されるがままになるほど素直ではなかったのである。
私には名もない大工の子として生を享けた誇りがあった。いわば非名門の誇りである。逆境に陥るたびに、私の原点ともいうべきこの誇らしい気持がどれだけ私を鼓舞したことか図り知れない。
私には権力もなければ財力もなかった。ただ私には、両親から授かった平均よりもやゝ上まわる頭脳があり、強靭ではないまでも、なんとか耐えていくだけの肉体があった。

五、 マルサと検察とが、総力をあげて創りあげた巨大な構築物は、偽りの重さに耐えかねて崩壊をはじめ、自滅していった。難攻不落の城が炎上して消えていったのである。
無罪の認定をしながらも、認定のプロセスが不十分であった第一審の判決は、いわば大坂冬の陣であった。外堀が埋められたのである。
完璧な無罪の認定をした第二審の判決は、いわば大坂夏の陣であった。本丸が炎上し、豊臣家が滅んだのである。
しかし、私は大工の倅であり、徳川家康ではなかった。私には、兵力もなければ財力もなく、あるのは一本の真実の竹槍であり、爛々と光る2つの眼と職人の血を引いた矜持であった。

 

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