064 判決
- 2004.12.07
- 冤罪を創る人々
4.判決
一、 平成13年6月11日、広島高等裁判所松江支部において、第5回公判が開かれ、宮本定雄裁判長が判決文を読み上げた。裁判長は、第1回から4回まで担当していた裁判長裁判官前川豪志が退官のため、裁判官石田裕一は転補のため出席することができない旨申し述べ、判決文の代読を行った。右陪席には第1回公判から第4回公判までの石田裕一判事にかわった吉波佳希判事が座り、左陪席には植尾伸一判事が座った。
判決末尾には、裁判官植尾伸一の名前のみが記され、「裁判長裁判官前川豪志は退官のため、裁判官石田裕一は転補のためいずれも署名押印することができない」旨記載されていた。
二、 控訴を棄却する、 ― 宮本裁判長は判決の主文を読み上げた。
一審判決が踏襲されたわけで、私の懲役1年6ヶ月、執行猶予3年はそのまま変らないということだ。
一審判決が破棄され、完全無罪となることを期待していた私は、一瞬力が抜けてしまった。傍聴席はざわつき、知人の何人かは静かに法廷を後にした。私への気くばりであったろう。
三人の弁護人もガックリと肩を落としていた。私の公認会計士と税理士の資格に傷がつかないように完全無罪かあるいは、せめて罰金刑に持ち込むと勢い込んでいただけに、拍子抜けしたようであった。
北野弘久日本大学教授の鑑定所見書を添えて臨み、必勝を期していただけに尚更であった。
三、 裁判長による判決理由の朗読が始まった。私は、判決の主文以上に、その理由が気になっていた。私を主犯とした大型脱税事件について、一審の松江地方裁判所は無罪としながらも、その認定のプロセスが誤っており、とうてい納得できるものではなかったからである。同時進行している税金の裁判(行政)において、刑事事件としては無罪であったとしても、多額の税金の徴収が認定される余地を残しているのが一審の判決における事実認定の内容であった。
判決理由の朗読が進むにつれて、私の中にふつふつと喜びがこみあげてきた。一審の誤りをただし、真実の事実認定をかなり詳しく行っているではないか。当然のこととはいえ、検察の主張していた架空売買が事実無根であることを明確な言葉で判示しているではないか。それは、検察側の虚構のシナリオが完全に崩壊したことを意味するではないか。
被告人席に座っていた私は、一つのことをなし終えた充足感に満たされ.身体が熱くなった。思わず立ち上って、大声で叫びたい衝動にかられた。
平成五年、広島国税局のマルサに急襲されてから八年、マルサ・検察がしかけてきた仁義なき戦いが一つの終止符を打った。
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