063 意見陳述

3.意見陳述

一、 平成15年2月19日、中村弁護人は、控訴審における最終弁論を行った。その後で、私は弁護人のアドバイスを受けて最終陳述を行なうべく、原稿を用意していた。

 しかし、前川豪志裁判長は、私の意見陳述を許可しなかった。

 以下は、当日準備したものの、法廷で読み上げることができなかった幻の陳述書である。

意見陳述

 公正証書原本不実記載、同行使の容疑で逮捕されてから、5年が経過しました。

 当時を振り返ってみるに、何故犯罪者として逮捕され、糾弾されなければならないのか、全く理解できませんでした。この5年間で、全ての事情が判明した現時点でも、全てについて冤罪以外の何ものでもないという思いは、強まることこそあれ変わることはありません。

 千葉物件の売買が仮装であったとする検察当局の勝手な思い込みに端を発した1000万円の売買の登記については、第一審で当然のことながら無罪とされたものの、農地の売買登記と、賃貸借権設定の仮登記については、第一審で不当にも有罪とされてしまいました。農地の売買の登記については、私が農業者でないために、農業者である岡島信太郎さんに、私が農業者の資格を得るまでの間、私にかわって農地を取得してもらっただけのことであり、真実の所有者と登記上の所有者との間に全く相違がないものであります。農地法の上から農業者でない私は、形式的にはもちろん、実質的にも農地の所有者になることはできないからであります。

 賃借権の仮登記については、検事が5年前に私の自宅で逮捕状を私に提示したとき、何のことなのか事実についての記憶が全くなく、したがって全く理解ができなかったものです。

 その後、事実が判明するにつれて私の中に驚きを通り越して怒りがこみあげてきたことをまざまざと想い出します。

 権利証がない場合の実務上の便法として司法書士の業界で通常なされていたことを、専門家である司法書士のアドバイスによって行ったことが懲役刑を伴う罪に問われたからであります。

 私が行ったことといえば、司法書士によって作成された書式に印鑑を押したことであり、当時、私は不動産登記法の詳しいことなど専門外のことであり、知る由もありませんでした。不動産登記に関する専門家である司法書士が、顧客に対して不正なこと、しかも懲役刑に問われるような不正なことを勧めるなどということは夢にも考えることができなかったのであります。

 しかも、「不正なこと」をアドバイスし、かつ全てのお膳立てをした当の司法書士は、逮捕されていないばかりか、この件に関して在宅起訴さえされていないのです。公正さに欠く検察当局の極めて恣意的なやり方について、私としては、とうてい納得できるものではありません。

 次に、法人税法違反事件について申し述べます。逮捕当時、大型脱税事件の主犯として、担当検事によって、事実に反することがマスコミに度々リークされ、その都度、私は悪徳公認会計士として全国に恥をさらすことになりました。当時の各新聞の切り抜きは現在私の手許にあり、当時いかに検察がデタラメな捜査をし、私を極悪人に仕立て上げるために敢えてウソの情報をマスコミに漏らしていたのか、それらは生々しく物語ってくれます。

 第一審において仮装売買であったと強弁する検察の主張が退けられ、無罪とされたのはけだし当然のことでありました。平成10年3月24日付でなされた『論告要旨』なるものは、オソマツ極まりないもので、本当にエリートとされる検察官の手になる文書であるのか疑ったほどです。私はこの論告要旨を分析し、同年4月1日付で「『論告要旨』における問題点 ― その欺瞞と誤謬 ― 」と題する16ページに及ぶ文書を弁護人に提出しております。明らかに事実に反する記述で、かつ単なる水掛け論ではなく、事実に反することについて明確に証明が出来る事柄が、驚くことに48もありました。更に『論告要旨』の記述に関して自己矛盾をきたしている点が6ヶ所ありました。検察当局がウソの犯罪を創作しようとしたことの当然の帰結であります。

 検察は、平成11年12月20日付で、当法廷に『控訴趣意書』を提出し、ウソの上塗りをいたしました。私は、この『控訴趣意書』を分析し、同年12月28日付で「検察側控訴趣意書に対する批判」と題する13ページに及ぶ文書を弁護人に提出しております。『論告要旨』同様にウソのオンパレードであり、同一人物が記述したとはとうてい思えない自己矛盾に満ちた作文であります。更に、いたるところで事実と異なることが検察官の憶測によって論断されています。どんなウソをついても、ともかく被告人を有罪にすればいいという姿勢が明らかであります。

 許し難いのは、実質課税の原則について、第2審の裁判官の判断を誤らせようとしていることです。

 即ち、検察官は「租税法上、実質課税の原則が存在する以上、租税法の解釈適用に当たっては、私法上の法形式にとらわれないで、経済的実質に従うべきであるから、原判決が判示するような『私法上の法律行為が形式的に有効でありさえすれば、それがいかに経済的に見て不自然、不合理であっても、およそ逋脱行為に該当しない。』などということがあり得ないのであって、この理は、行政裁判においては一般に承認されているほか、刑事裁判においても確定されている」と主張しています。

 この点については、日本税法学の草分け的存在であり、現代の日本における税法学の第一人者とされている日本大学教授北野弘久法学博士が、最終弁論要旨添付の「鑑定所見書」の3~6ページにかけて明確に所論を展開され、「検察官の主張は税法学的に誤りである。」と断定されていることを改めて指摘しておくにとどめます。北野教授は単に税法学における権威であるにとどまらず、過去税務関連の裁判において300にも及ぶ鑑定所見書を作成されるなど、税の実務に通暁されている方でもあります。

 原審において逋脱の罪で有罪とされた2つの件、即ち、圧縮記帳引当金の益金不算入と貸倒損失の処理に関しては、第一審の判決後、私達公認会計士、税理士業界で大きな話題となりました。このような事案で立件されたケースは過去全くなく、したがって判例が存在していません。実務家の立場からすれば、仮装隠蔽といったような作為の全くないこのような事柄をもって、公認会計士、税理士の資格を事実上剥奪する意味合いをもつ懲役刑に問われるものとすれば、恐くて仕事をやっていくことができないといった声が全国から多数寄せられてきました。当法廷で申し述べましたように、判決後に私と面談した広島国税局の2人の調査官でさえ首をかしげていたくらいです。

 更に、税法学上の所見が前に述べました北野教授から寄せられており、それは最終弁論要旨の添付書面である「鑑定所見書」の8~12ページにわたって明確なる所論が展開され、2つの事案に関して共に、「租税逋脱犯の不成立」が結論付けられております。

 北野教授は、「鑑定所見書」の結語として、「以上の検討で明らかなように、本件は、税法学の通常の理解をしておれば、およそ租税逋脱犯なるものが存在しないことが容易に判明する事案である。検察官は、実質課税の原則に対する正当な理解をしないで、適法・有効な本件代替資産(圧縮資産)の取得行為を租税逋脱行為と認定するという誤謬を犯した。また、圧縮記帳引当金の益金への戻し入れをしていないことは単なる事後処理上のミスにすぎない。また問題の債権に対して『回収不能』という認定を行ったことが妥当であるかどうかは価値判断の問題にすぎない。右両者の不申告を原判決は租税逋脱行為と認定するという誤謬を犯した。本件は、税法及び税法学への無知から生じた不幸な事件である。本件には法人税法159条違反として刑事責任を問われねばならない事実は全く存在しない。被告人を有罪とすることは誰の目からみても、疑いもなく冤罪である。検察官及び原審裁判所の無知が厳しく問われねばならない。原判決は破棄されねばならない。そうでなければ、著しく正義に反する。」と述べて下さいました。

 私は、この意見陳述を終わるにあたり、思いがけなくも多大なご迷惑をおかけした、岡島信太郎さん福山義弘さん、増田博文さんを始めとする組合の皆様方、並びに小島さんに対して改めてお詫びを申し上げる次第であります。

 私は共同被告人共々、この第二審の公正な法廷の場で、忌まわしい刑事被告人という肩書きを取り去っていただき、晴れて全面無罪の判決がいただけるものと信じていることを申し述べ、意見陳述を終わらせていただきます。

 

平成13年2月19日 山根 治

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