西武鉄道 「堤商店」のトリック

堤義明さんは、二代目としては珍しいカリスマ性を持った経営者で、バブル経済の崩壊を力強く乗り切ってバリバリ突き進んでいる豪腕の持主であると単純に思い込んでいました。

 ところが、堤さんは経営情報の中でも極めて重要なものである大株主に関する情報を、長年にわたって偽って公表していた事実を自ら明らかにし、記者の『上場廃止になる可能性があるようですが』という質問に答えて、『仮に上場廃止になっても決して株主に迷惑をかけることはない』と開き直り、『そもそもなぜ西武鉄道を上場しなければならなかったのか私にはわからない』と言い放ったというのです。

 日本を代表する企業グループの一つである西武グループの総帥の発言としては、余りにもオソマツで首をかしげざるをえないものでしたので、今までさほど関心を持っていなかった堤さんとその会社についてもっと知りたくなりました。



 早速、西武鉄道の決算書等(平成16年3月期の有価証券報告書)を手許に取り寄せて、分析してみました。

 私の分析の大要は、既に『ゴーイング・コンサーンの幻想-1~6』『西武鉄道グループの資金繰り-1~3』でお話したところです。ちなみに、経営者の人となりを判断するには、その人の会社の決算書を見るのが一番です。数字は正直なもので、決算書が喋り出すんですね。

 西武鉄道の決算書類を、ソロバンと電卓とエンピツとを手にして2~3日の間いじくり回して遊んでいたところ、夜中にヘンテコリンな夢を見てしまいました。夢の中にいろいろな人達が出てきて、勝手にワーワー喋り出したんです。



 一組の夫婦が登場します。このカップルは、どうも女の力がはるかに勝っていて、カカア天下のようでした。職人気質のオヤジは、真面目にチマチマと日銭を稼いできては、カアチャンに残らず手渡しています。オヤジを鵜(う)とすれば、カアチャンは鵜匠(うしょう)といったところでしょうか。我が家にも実は一人威張っている鵜匠がいるようですが。

 ところが、このカアチャンは我が家の鵜匠と違って、並のカアチャンではありませんでした。なんと魔女だったのです。オヤジの稼ぎを、何だか分からないブラック・ボックスに投げ込んでは、何十倍にも何百倍にも膨らましてしまう。カアチャンのブラック・ボックスは、打出の小槌のようにいくらでもお金が湧き出してくる、何とも不思議なものでした。

 二人には、一男一女の子供がいました。お金が腐るほど湧いてくるものですから、子供達は小さい頃から甘やかされて育ちお金は使い放題という状態でした。

 二人の子供達はスクスクと成長し、お金を使いまくっては遊ぶ、堂々とした道楽息子と道楽娘になりました。

 ところが、永久に続くと思われていた一家の華麗な生活は、一瞬にして崩れていくことになりました。

 世間にはカリスマ以上の魔女と思われていたカアチャンが、実はトリックを用いて世間を欺いていたマジシャンであったことが、明らかになったのです。

 ブラック・ボックスの秘密が露呈されてしまってはもういけません。神通力がなくなってしまいました。

 結果、一代の栄華を極めたこの一家は、住む家さえ失い、バラバラに離散することになりました。



 朝、眼が覚めて荒唐無稽な夢のことをツラツラと想い浮かべていたところ、一つのアナロジーに気がついて驚いてしまいました。

 ・オヤジ   - 西武鉄道

 ・カアチャン - コクド

 ・道楽息子  - 西武球団

 ・道楽娘   - プリンス・ホテル



 堤義明というカリスマ風の経営者は、夢の中に出てきた、オヤジであり、カアチャンであり、道楽息子であり、道楽娘であったのかもしれません。この人は、一人で4人の役割をしていたとも言える訳で、まさに個人経営の「堤商店」と言われるゆえんなのでしょう。

 夢とは異なり現実がどのように推移していくのか定かではありませんが、マジックと同様、トリックが明らかになってしまうと、なんとも興ざめで白けてしまうものですね。

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 ここで一句。
“カネだけじゃ球団買えぬとアノ方が?” -東京、中西晶洋(毎日新聞:平成16年8月20日号より)


(オーナー仲間でナベツネさんと親しかった堤さん。では、とっておきのトリックでも伝授してもらったらいかが、ライブ・ドアさん。)
 

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