ゴーイング・コンサーンの幻想-6 西武鉄道
- 2004.11.02
- 山根治blog
西武グループの更新投資額を年間で237億円としますと、営業活動によるキャッシュ・フローの533億円から、この237億円を差し引いた296億円が、借入金の返済に充てることのできる財源、つまり返済可能財源ということになります。ちなみに、西武鉄道は、260億円(フリー・キャッシュ・フローといっていますが)と言っています。
さあ、ここまで来ると核心に迫ることが言えるようになってきます。
連結付属明細表の中に借入金等明細表がついており、有利子負債8,996億円の内訳が示されています。
この中で私が特に注目するのは、長期借入金等の返済予定額です。5年間にわたる返済予定額が示されていますが、これは西武グループが金融機関に対して約束した返済額(約定返済額といいます)のことです。これによりますと、平成16年3月期の約定返済額は、1,225億円でした。
この金額1,225億円と先に推計した返済可能財源296億円とを対比してみると重大なことが判明します。
それは、約定返済額が1,225億円であるにも拘らず、現実に返済可能であるのは296億円しかありませんので、実に929億円も返済資金が不足するということです。
しかも、西武グループは、私がとりあえず返済可能であると推計した296億円についても10億円しか返済してはいないのです。それは財務活動によるキャッシュ・フローの中で示されているように、長期借入金の返済は形の上では確かに1,355億円実行されてはいますが、ほぼ同額の1,345億円の長期借入金が借り入れられていること、つまり、大半の部分について約定返済のジャンプがなされていることから判明します。
更に今後のことについても同じようなことが言えるようです。
長期借入金の今後5年間の返済予定額は、-
1年目 | 1,138億円 |
2年目 | 1,230億円 |
3年目 | 699億円 |
4年目 | 1,101億円 |
5年目 | 1,250億円 |
となっており、仮に返済可能財源を296億円とすれば、返済資金の不足額は、
1年目 | 842億円 (1,138億円-296億円) |
2年目 | 934億円 (1,230億円-296億円) |
3年目 | 403億円 ( 699億円-296億円) |
4年目 | 805億円 (1,101億円-296億円) |
5年目 | 954億円 (1,250億円-296億円) |
と巨額になることが推計されます。約定通り返済しようと思ってもできないのです。尚、「有価証券報告書」では、“当社グループでは、キャッシュ・フロー重視の経営を行っており”と強調していますが、はてさて。
このような状況の中で西武グループは、”2002年以降、新ホテルの建設・開業や経営破綻した川奈ホテルの買収などホテル・レジャー関連事業を急拡大している。主要事業への設備投資額は軽く一千億円を超え、業界内でも突出した数字である。”(日本経済新聞平成16年10月16日付)”来春、西武鉄道グループが総力を挙げた新施設が東京都内に相次ぎ開業する。東京プリンスホテルパークタワー(東京、港)と、都内最大級の水族館やコンサートホールなどを備えた品川プリンスホテルアクアスタジアム(同)である。“(日本経済新聞平成16年10月16日付)と報道されているように、たいへんな鼻息です。
それにしても、金融筋は西武グループの財務と収益の状況を十分に承知していながら、どのような理由で、このグループの新規の巨額投資活動を支援してきたのでしょうか。私には不思議としか言いようがありません。バブル経済時代の銀行が復活したのでしょうか。
以上、私は長々と西武グループの資金繰りについて、公表数字をもとにお話してきました。
結論として資金繰りについて西武グループは、いわば自転車操業に陥っていると言えるかもしれません。
しかも、私の資金繰りについての分析は、あくまでも不祥事が発覚するまでのもので、西武鉄道が東証一部上場会社であることが前提となっているものです。
不祥事が露呈される前でさえ、資金繰りが自転車操業に陥っており、火の車ではないかと判断されるほどですので、これが上場廃止という非常事態にでもなったら一体どうなるのでしょうか。
金融筋は、ダイエー並みの大きな火種を抱えたのかもしれませんね。
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
“側用人踏み絵とまるで江戸時代” -佐世保市 坂井正憲(朝日新聞:平成16年10月3日付朝日川柳より)
(選者寸評に曰く、「茶坊主も」。小泉さんは慶応、堤さんは早稲田。早慶戦?)
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