ゴーイング・コンサーンの幻想-3 西武鉄道
- 2004.10.28
- 山根治blog
西武鉄道の本来の事業である鉄道事業は、代表的な公益事業の一つで、国と地方公共団体から数多くの恩恵を受けています。鉄道事業法等の法律の規制に縛られており、公益企業として当然のことながら経営者の裁量権には大きな制約が課せられています。
とくに、鉄道事業の根幹をなしている鉄道資産については、たとえば用途を変更して切り売りするなどの処分はできなくなっているはずです。
つまり、事業を廃止でもしない限り、鉄道資産の処分は事実上できないのです。
このような資産は、いくら多くの含み益を持っていても、含み益を実現させることができませんので、計算上の含み益は絵にかいたモチであり、このために、含み益を考慮して評価することは適当ではありません。
従って、3,519億円計上されている鉄道資産については含み益を計算しない、とする他ありません。
結局、含み益を計算できるのは、いざとなったら現実に処分ができる鉄道資産以外のもの、つまり付帯事業用固定資産とか分譲土地建物等(これらの合計額は公表では3,626億円)だけになります。
これらの資産だけで果たしてどれだけの含み益があるのでしょうか。個別に評価して積上げ計算すれば具体的に判明するでしょうが、ここでは公表されている範囲のものを拾い出してみて、推計してみましょう。
前回、西武鉄道の会社の値打ちは、3,160億円(5%の利回りで還元した場合)であり、9,055億円の債務に対して、資産が6,000億円弱不足することを説明しました。
これは、債務免除を全く受けないで、資産と負債とのバランスを取るためには、6,000億円の資産が必要であることを意味します。つまり、含み益が6,000億円あれば、トントンになるのです。
ただ、これは資産の掛目を100%にした場合ですので、仮に上場廃止にでもなれば、ただの会社に転落する事になり、掛目はよくても時価の70%位になるでしょう。すると、含み益は6,000億円では足りず、8,500億円強(6,000億円÷0.7=8,571億円)必要となります。
そこで、8,500億円強の含み益が、西武鉄道に果してあるのか考えてみましょう。
含み益が現実的な意味を持つ鉄道資産以外の資産の合計額は簿価で3,626億円ですが、この中には含み益どころか評価損を考えなければならない償却資産も含まれていますので、それを除いてみますと、含み益の対象となるのは、以下のものに限定されることになります。
1.土地について
1.土地および車庫 | 348,206平米 | 9,900百万円 |
2.レジャー・サービス業 | 7,141,290平米 | 34,481百万円 |
3.その他 | ?平米 | 162,741百万円 |
合計 | ?平米 | 207,122百万円 |
まず土地について。
土地についての情報は、十分なものが開示されていません。貸借対照表の上では土地勘定がありませんので、開示資料のあちこちから、なんとか拾い出して作成したのが上の表です。
これによれば会社の土地は、簿価で2,071億円。1.の工場および車庫用の土地は、鉄道事業に供されていますので、既に述べた理由によって、含み益を考える際には除外します。また、2.のレジャー・サービス業用の土地は合計で714万平米もありますが、この大半のものは、含み益が考えにくいようです。
つまり、その内訳を見てみますと、5つのゴルフ場(市街地にあるかもしれない西武園ゴルフ場だけは、とりあえず除きます)と秩父スポーツの森が目に付きます。この6つの土地は、合計で577万平米、簿価298億円となっており、ブームが去ったゴルフ場等をめぐる昨今の状況を考えますと、含み益は考えにくいどころか、時価の方が低い可能性すらあります。
3.のその他については、ブラック・ボックスとなっており、公開されている資料からは判然としません。差し引きしてみると簿価で1,627億円の土地があるようですが、その所在地とか面積等が分からないのです。
ただ、金額が1,627億円と比較的大きいことから考えて、さほど古くからの土地ではなく、比較的最近に取得されたものではないかと思われます。だとすれば、この土地については含み益はほとんどないものと考えたほうがいいでしょう。
結局、土地については一般に信じられているほどの含み益はないかもしれません。
2.投資有価証券について
1.株式 77銘柄 | 15,719,514株 | 24,035百万円 |
2.債券 劣後債 | - | 500百万円 |
合計 | - | 24,535百万円 |
次に、投資有価証券について。
この内債券の含み益については除外します。株式77銘柄のうち15銘柄については、(株)みずほフィナンシャル・グループ(7,624株、6,175百万円)を筆頭に、具体的に開示されています(株式の簿価全体の87.9%)ので、含み益(あるいは含み損)の計算は可能です。
残りの12.1%分(62銘柄、2,926百万円)については詳細が開示されていません。
以上、土地の一部と所有株式に含み益が存在することは確実でしょうが、総体的かつ直感的に推量すれば、1兆円を超えることは考えにくく、多くとも5,000億円どまりではないでしょうか。
すると、債務免除を全く受けないで資産と負債のバランスを取るためには、8,500億円強の含み益が必要であるとした私の所論に照らしてみますと、3,500億円分不足することになります。
仮に8,500億円の含み益があったとしても、資産の評価と債務の額が一致するだけの話です。この場合純資産、つまり株主資本はゼロとなり、4億株強の発行済み株式は単なる紙クズとなってしまうのです。
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
“100点に98点足りないな” -逗子、杯快師(毎日新聞:平成16年9月29日号より)
(新聞の川柳は、毎日楽しみにしているものです。原稿を書き終えてからスクラップ・ブックをひっくり返して、一句だけ拾い出すのも私の楽しみの一つです。)
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