「スケコマシ」考 -その3

先日、ボーっとしてテレビのワイドショーを見ていたところ、ある男性タレントが離婚会見を長々とやっており、しかも生中継で流されていました。

 その三十歳台の二枚目タレントは、会見の席でなんだかとても怒っているようでした。芸能人は自らのイメージを大切にするために、テレビカメラを前にするとかなり腹を立てている場合でも、意識的にセーブするのが普通です。

 しかし、この人は違っていました。顔がひきつるくらい激怒しているのです。美人が怒った顔をするとそれなりにサマになるものですが、二枚目が本気で怒ってしまったら、絵にもなりませんね。正直な人なのでしょう。



「別れることになったとはいえ、一度は愛し合った女性です。しかも2人の間には2人も子供がいるんです。それを何ですか。あの男は失礼ですよ。」



 二枚目氏が、離婚会見の席上で何故立腹しているのか、今ひとつピンとこなかったのですが、アホくさいと思いながらも、引き続き耳を傾けていたところ、なんとかその理由が分かってきました。

 ことの発端は、タレント仲間の男が、その二枚目氏の妻と密会している現場を写真週刊誌がスクープしたことにありました。浮気相手の男が週刊誌のインタビューに応じて、「いやあ、火遊びがすぎて、懲りちゃいましたよ。」とコメントしたことで話がややこしくなってきたようです。



『妻と浮気をしたうえに、火遊びとは何たる言い草であるか。全く妻をバカにしたもので、けしからん! 人の妻を“イテコマ”しておいて、火遊びとはよくぞ言ってくれたものだ。私だけでなく妻をも侮辱するもので、断じて許すことができない!!』



 離婚後も元妻と同居を続けているというこの二枚目氏は、プップと頭から湯気を立てて怒っているのですが、浮気をした元妻に対して怒っている訳ではないようですし、浮気そのものがけしからんと言っている訳でもないようです。

 どうも相手の男の態度が気にくわない、浮気をするならもっとマジメにやれ、とでも言って怒っているようなのです。

 こうなると普通人の理解を超える世界に突入します。もともと、男も女も不マジメだから浮気をするのであって、そもそも火遊びでない浮気など存在しないと思うんですがね。



 彼は、浮気をするならマジメにやれ、と口角泡を飛ばしており、会見場にいた多くの芸能レポーター達も毒気を抜かれたように、通常は質問責めにするところを言葉をさしはさむこともなく、饒舌なタレントの一人舞台となっていました。

 いくつかの民放が生中継をしていたのですが、ある局のワイドショーのキャスターが、スタジオで顔をしかめて、「あれは一体何ですか」と苦々しげにコメントしていたのが印象的でした。キャスターには、超新人類とでもいえる存在が、理解しようにもとうてい理解できなかったのでしょう。



 近年、日本語の語彙が乏しくなり、次第に軟弱になってきていると言われています。教育のあり方が最も大きな原因でしょうが、マスコミが言葉を自主規制していることもその要因の一つであるようです。

 スケコマシとかイテコマスなど、下品で差別的ともいえる言葉で、さしづめ自主規制の対象となっていてもおかしくない言葉です。生放送の関係もあったのでしょうか、そのタレントが「女房をイテコマした奴」と何回となく口走っているにも拘らず、そのまま流されていました。全体の話の内容はともかくとして、私は久しぶりに生きた日本語を耳にする思いで、嬉しくなりましたね。

 スケコマシとかイテコマスとかは、元来がテキヤやヤクザ仲間の言葉であっただけに、決して上品な言葉ではなく、華を売り物にするタレントが平気で口にしていいものではありません。しかし、彼のやむにやまれぬ本当の気持を表現するには、その言葉しかなかったのでしょう。実に生き生きとして伝わってきました。



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ここで一句。
“離婚劇言ってるばかに見るアホウ” -岡山、桐ちゃん。(毎日新聞:平成16年9月9日号より)



(コメントは特にありません。おっしゃる通りです。)

 

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