引かれ者の小唄

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125 看守という名の執事

※「(第五章)勾留の日々」より続く ***1.看守という名の執事 私が逮捕勾留されたのが平成8年1月26日であったから、すでに9年の歳月が経っている。逮捕されてから同年の11月12日までの291日間、私は松江市の郊外にある松江刑務所拘置監に囚われの身となって閉じ込められていた。 自らを総括するために綴った「冤罪を創る人々」をWebサイトでアップし終えた今、改めて想うことは、拘置所で過した日々がなん […]

104 被収容者

****(3) 被収容者 一、 松江刑務所には、受刑者及び未決囚あわせて400人位が収容されていた。 私は未決囚であり、独房に入れられていたため、他の被収容者と顔を合わせたり、話をしたりすることはなかった。取調べとか面会のために独房から連れ出され、廊下を歩いているとき、他の被収容者とすれ違うことがあったが、歩行を停止した上に壁側に向かわせられた。お互いに顔を合わせないようにするためである。 二、  […]

103 衛生夫

****(2) 衛生夫 一、 拘置監を担当する衛生夫は二人であった。出所間近の受刑者だったのであろう。二人共、彼らがセンセイと呼ぶ担当看守の手足となってコマネズミのように立ち働いていた。 配食、空下げ、洗濯物の収集と返還、自弁品の配布、その他拘置監内の雑用全てを、看守の監督のもとに行っていた。 二、 私語は禁じられていたため、彼らと話をすることはなかった。ただ、私がときおり、「ご苦労さま」と小声を […]

102 刑務官

***9.人間模様 ****(1) 刑務官 一、 私が291日の勾留中に接した刑務官は、20人位であろうか。 担当看守、主任看守、処遇首席、総務課長、処遇部長。その他、面会、風呂、運動、医務及び裁判所への引率役の看守、面会時立会役の看守、夜(21時から7時まで)の巡回見廻り役の看守。捜検の看守。 二、 一番多く接したのは、担当看守である。三十代の生まじめな人物で、背が低く、被帽の下は若ハゲであった […]

101 風呂と運動

***8.風呂と運動 一、 勾留291日の間に入った風呂の回数は、100回位であったろうか。 月曜日から金曜日までの5日間、外での運動と風呂が一日おきに与えられた。土、日及び祝祭日はない。三連休以上になると、風呂が与えられることがあった。 したがって、週によって運動が3回であれば風呂は2回であり、運動が2回であれば風呂は3回であった。 二、 風呂場は拘置監一階にあった。独房を風呂場に改造したものの […]

100 外出

***7.外出 一、 勾留中に外出したのは、10回であった。一回だけ本件で再逮捕されるために検察庁に出頭したほかは、全て松江地方裁判所への出頭であった。 二、 外出の手順について、平成8年7月9日、第三回公判廷に出廷したときの状況に即して、具体的に記述してみよう。 三、 午後12時20分頃、担当看守が、私が収容されている拘置監二階の4号室の前で、「出房!」の号令をかけ、私を房から連れ出す。ここで、 […]

099 クサイ飯の実態

***6.クサイ飯の実態 一、 俗に、ムショ(刑務所)の飯のことをクサイ飯といい、投獄されることをクサイ飯を食うという。 私が入っていたのは、松江刑務所拘置監で、刑務所ではない。ただ、看守長から聞いたところでは、私のような未決囚も、受刑者と同じものを食べているということであるから、私も、ムショのメシを食べたといっていいであろう。 二、 私は、291日の間勾留されていたのであるから、このムショのメシ […]

098 安部譲二との出会い

***5.安部譲二との出会い 一、 平成8年4月3日に借り受けた官本の中に、安部譲二の「つぶての歌吉」があった。 早速読んでみた。面白い。官本は房内にいつまで置いてもよかったので、少しずつ読むことにした。早く読み終えたらもったいないと思ったのである。 二、 そのころ私は、万葉集の書写に熱中していた。書写の合い間に気分転換が必要であり、そのために軽い読み物を読むことにしていた。一日に一時間位、主に午 […]

097 書写と古代幻視

***4.書写と古代幻視 一、 平成8年2月5日、逮捕11日目のことであった。廊下でゴロゴロ音がして何かが独房の前に運ばれてきた。官本であった。3冊を限度に貸し出すという。 見れば、台車に乗せられ三段に仕切られた小さな本箱の中に、100冊位の本が並んでいる。 検視窓越しに背表紙を見る。早く早くと急かされるのでゆっくり吟味する暇がない。 とくに読みたい本はないが、私本の房内所持が3冊に制限されている […]

096 原体験への回帰

***3.原体験への回帰 一、 私が逮捕勾留された1月26日は、寒い日であった。その後連日、夜中は零度を切る厳寒の日々であった。 二、 拘置監の独房には、全く暖房の設備がなかった。その上、一日に7回以上は、食事の差し入れ、連れ出し、あるいは室内検査のために、窓と扉が開けられ、その都度寒風が容赦なく独房に入ってきた。独房内の流し台が凍ったことも一度や二度のことではない。流し台は、床から41cmのとこ […]

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