東京地検特捜部も断末魔(だんまつま)に-③
- 2019.01.07
- 山根治blog
平成30年12月25日の深夜、カルロス・ゴーンとともに逮捕・勾留されていたグレッグ・ケリーが保釈された。当然のことである。カルロス・ゴーン同様、無実の罪(冤罪)を着せられているからだ。
前回のつづきである。カルロス・ゴーンが犯したとされる犯罪の3つの構成要件のうち、「1)有価証券報告書(金融証券取引法第24条第一項の規定によるものに限る)」の要件は、明らかに充足されている。前回述べた通りだ。
問題なのは、残りの2つの構成要件である。つまり、
2)重要な事項の虚偽記載
3)1)に2)の虚偽の記載があるもの(注.有価証券報告書のこと)を提出した者
の2つである。
まず、2)の「虚偽記載」について。この「虚偽記載」とは一体何か。
-『企業内容等の開示に関する内閣府令(昭和四十八年大蔵省令第五号)』
これは、金融証券取引法の規定に基づいて大蔵省(現在は、内閣府)が発した省令(現在は、府令)である。
この省令(府令)は、第一条から第二十三条の三までの条文と第一号様式から第十九号様式までの様式から成り立つ。
第二号様式の中に、(記載上の注意)として、(56)コーポレート・ガバナンスの状況があり、
として、
と規定され、ただし書きとして、( )の中に
とする記載がある。
東京地検特捜部は、上記省令(府令)を根拠として、カルロス・ゴーンの報酬過少記載を認定し、摘発したものであろう。
そもそも、この省令(府令)とは一体何か?
省令(府令)は、行政の一部門である大蔵省(内閣府)が制定した規範のことだ。法律ではない。
法律とは、「国会で制定された規範」(広辞苑)のことであり、省令(府令)は該当しない。
とりわけ、罪刑法定主義を基本とする刑事法においては、法律の概念を厳格にしぼって考えるべきであろう。法律の概念を拡大して解釈することは厳に謹まなければならない。
カルロス・ゴーンの報酬が、「過少に」記載された(虚偽記載)とする根拠は、上記の省令(府令)であって法律ではない。法律ではない規範をもとに犯罪を認定することは、罪刑法定主義に反することだ。これだけでも、東京地検特捜部が行った逮捕・勾留・訴追はアウトである。
加えて問題となるのが、第3の犯罪構成要件だ。つまり、
3)虚偽の記載がある有価証券報告書を提出した者
とする要件のことだ。この要件、「虚偽の記載」ではなく、「虚偽の記載がある有価証券報告書を提出した者」であることだ。
有価証券報告書の提出者は、以下の通り、ネットで公表されている。
はじめの5年間(平成24年3月期~同28年3月期)は、カルロス・ゴーン。直近の2年間(平成29年3月期から同3月期)は、西川廣人。
即ち、カルロス・ゴーンが逮捕・勾留・訴追されている「犯罪」の期間は都合7年分であり、そのうちの直近2年分については、有価証券報告書の提出者は西川廣人となっており、カルロス・ゴーンではない。直近の2年分については、3)の「虚偽の記載がある有価証券報告書を提出した者」という犯罪構成要件が欠落しているということだ。
たしかに日本でも、刑事訴訟法の改正によって、平成30年6月1日から司法取引が開始されたが、真実の提出者である西川廣人をはずして、提出者ではないカルロス・ゴーンを提出者にすることなどできるはずがない。ネタが直ちにばれるマジックを東京地検特捜部は行っている。
以上、カルロス・ゴーンが逮捕・勾留・訴追されている有価証券報告書虚偽記載罪については、3つの犯罪構成要件のうちの2つが欠落しており、犯罪として成立しない。冤罪(えんざい)である。
断末魔(だんまつま)に陥っているのは。カルロス・ゴーンではなく、東京地検特捜部である。
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ここで一句。
(“金(かね)払い、払い終って成り上がり”-平成最後の歳の元旦所感)
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