暴かれたカラクリ-⑶

 脱税裁判のカラクリの二つ目は、冤罪(無実の罪)でも有罪にしてしまう刑事裁判におけるカラクリであった。検察官と裁判官とがグルになって、証拠能力のない証拠(伝聞証拠-(注1))を証拠能力のある証拠(注2)にスリ換えるカラクリである。本稿の⑴で詳しく述べた通りである。



 この二つ目のカラクリを、原判決破棄、一審への差し戻しの判決理由とした控訴審判決ではあったが、判決文の末尾に「付言」なる怪しげな一文が添えられている。差し戻しの裁判を担当する検察官への助言である。

 「差戻し後の第一審における審理の在り方について、当裁判所の意見を付言する」として、

「差戻し後の第一審においては、まず、適切な争点整理が行われるべきであり、検察官は真に立証すべき事実は何であるかということを吟味してその主張を具体的に明らかにすべきである。」

とし、さらには

「検察官が本件査察官報告書等により立証しようと意図した事実は、突き詰めれば、A社が提出した確定申告書に記載された所得額と真実の所得額との食い違いであると解され、証拠調べが必要な原資料は、その食い違いを示す資料に限られているから、検察官としては、必要な資料を抽出して整理し、その記載内容から必要な部分を明記して原資料を明示した分かりやすい一覧表を作成するなどした上、刑事訴訟法321条第3項の書面(筆者注。検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面のこと。本件の場合は検察事務官報告書のこと。)として証拠請求し(もっとも、その場合であっても、原資料が伝聞例外に当たるなど証拠能力を有していることは別途立証する必要がある。)、加えて、査察官等の証人尋問により同書面の意味を説明するなど、分りやすい立証の方法を工夫すべきである。」

と、極めて具体的に差し戻し後の第一審における審理の仕方について注文をつけている。
 なんのことはない。

「第一審では検察官も裁判官もドジを踏んだ。巧妙に創り上げた有罪デッチ上げシステム(伝聞証拠を伝聞例外の鑑定書にスリ換えたこと)の運用の仕方が間違っている。「付言」のようにすれば、キッチリと有罪にもっていける。」

ということではないか。
 控訴審の裁判官は、冤罪であっても必ず有罪にできるようなインチキシステムが間違っていると言っているのではない。有罪にもっていこうとするやり方が間違っていると言っているだけではないか。控訴審判決が以上のようなものであるとすれば、この控訴審裁判官は、憲法第76条第3項が保障する裁判官の独立性にそぐわない。つまり、

「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職務を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(憲法第76条第3項)

とする規定が空しく響くのである。控訴審判事が「良心と憲法・法律にのみ」従っているのであれば、憲法第37条第2項に定める反対尋問権の封殺を示唆する「助言」など書けるはずがないからだ。あるいは、現代における“令外の官”(注3)として知られている「最高裁判所事務総局」あたりの意向を忖度(そんたく。他人の心中をおしはかること。-広辞苑)したのではないか。裁判官を拘束する“天の声”である。

 案の定、民商の弁護団は「画期的な判決である」と評価する一方、怪しげな「付言」が添えられていることから一抹の不安をかかえているようだ。
 しかし、それは杞憂(注4)というものだ。刑事法廷の悪しき“慣行”にとらわれているが故の、謂(いわれ)なき不安でしかない。民商の弁護団は、検察官が証拠として提出する査察官報告書(質問てん末書を含む)が、「鑑定書」(刑訴法第321条第4項)であろうと、控訴審判事が「付言」で示唆した「検察事務官報告書(刑訴法第321条第3項)」であろうとも、どちらであっても構わない、書面を作成した査察官なり、検察事務官を刑事法廷の場に証人として引っぱり出して、ただ次のように証人に対して反対尋問するだけで良い。

 査察官に対しては「あなたは課税標準(脱漏所得の金額)と税額(脱税額)を算定して確定する職務権限を有するのですか?」、あるいは「あなたがなさった調査は、国犯法第一条に定める任意の調査であって、通則法第24条に定める強制力のある調査ではないのでは?」と、書類作成人の適格性について問い質すだけのことだ。書類作成のインチキが明らかになり、査察官報告書の証拠能力が否定されることになるからだ。
 また、検察事務官は職務上、国犯法第一条に定める質問検査権も通則法に定める質問検査権もともに有していない。反対尋問するまでもなく、書類作成人の適格性は明確に存在しない。

 控訴審判決は、査察官報告書(質問てん末書を含む)が刑訴法第321条の第4項に定める「鑑定書」、もしくは「鑑定書に準ずる書面」とは認められないと認定している。しかし、一方で、認められないのは、第一審の検察官、裁判官がともに、査察官報告書の証拠能力の立証の仕方が不充分であったと言っているにすぎない。
 とすれば、どのようにすればよいのか。差し戻し控訴審で弁護団がなすべきことは何か。
 査察官報告書、あるいは検察事務官報告書の証拠能力を否定すること、これだけのことである。上記のように簡単なことだ。控訴審判決の「付言」という名の珍妙なアドバイスに従って、差し戻し審の検察官がいかなる屁理屈をこねようとも無駄なことである。冤罪(脱税犯罪)を、どのような策を弄しようとも有罪にできるはずがない。

 50年以上にわたって繰り広げられた、国税・検察・裁判所・“天の声”を発していた「最高裁事務総局」による、国家ぐるみの税金収奪と冤罪捏造のインチキシステムは、自ら墓穴を掘り、崩壊していくことになろう。
 天網恢恢(てんもうかいかい)疎(そ)にして漏らさず(注5)、飛んで火にいる夏の虫である。

(この項おわり)

-(注1)伝聞証拠(でんぶんしょうこ。実見によらない、また聞きの証拠。刑事訴訟法上、証拠能力が制限される。-広辞苑)
-(注2)証拠能力のある証拠(伝聞例外を定めた刑訴法第321条第4項の「鑑定書」)
-(注3)令外の官(りょうげのかん。律令制下、令に規定された以外の官。-広辞苑)
-(注4)杞憂(きゆう。(「杞」は古代中国にあった国の名。その国人が、天が落ちてきたらどうしようと心配して寝食を廃した故事に基づく語)取越し苦労。-新明解国語辞典)
-(注5)天網恢恢疎にして漏らさず(てんもうかいかいそにしてもらさず。どんな小さな悪事でも天罰をまぬがれることはできない形容。-新明解国語辞典)

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