007 真相との相違点と証券金融事業における私の経営理念3

006 真相との相違点と証券金融事業における私の経営理念2より続く



***十、証取法における問題点

 

 次に証取法の問題です。

 顧問弁護団から「灰色」であると指摘された訳ですが、7月の時点では、「関東電化」を大量に買いたいといった事情もあり、「証取法というのは、一般の証券会社でも毎日のように犯している法律であり、問題はない。」と思っていました。証券界の実情を知る人なら、誰でもわかっていただけますが、日常茶飯事に証取法違反が行われており、私のように子供の頃より証券界に親しんできた人間には、道路交通法の駐車違反くらいの感覚しかないのです。しかも灰色とのことでした。

 私は、何度もこの証取法ですら、白くなるようにしようと試みました。しかし、証取法を白にすると、刑法違反でないための大前提である経済的効果が同じでなくなってしまう可能性が、大暴落の時に出てくることになるのです。たしかに、取りついでいれば返済できなくとも刑法違反にはならなかったかも知れませんが、事業家として返済できないということは、絶対にあってはいけないことと思っておりました。会員も私共も大きなメリットを受け、かつ返済できないことがないようにするための道を模索していたのです。

 とにかく、「取り次がないで経済的効果を同じにする」、これがあらゆる角度から検討して、ベストではないまでもベターでした。では、ベストとは何でしょうか。暴落が来ても返済でき、しかも取りつぐことです。しかし、これは投資ジャーナル銘柄以外の株を顧客が買ってくるという現実がある以上、あり得ないことだったのです。顧客への返済を大暴落の時にも確実にしていく方法は、皮肉にも取り次がないことだったのです。

 もし、取りつぎがないことが詐欺になるという回答であるならば、取りつぐことにより、大暴落の時、大きなリスクを背負うことがわかっていても、私は取りつぎを実行したことでしょう。大暴落の可能性は数年に1回くらいだからです。

 証取法を白にする「取り次ぐということ」をするよりも、刑法を白にすると信じ込んでいた「経済的効果」を優先したのです。私は、「証取法上、灰色」という命題と、「顧客への確実なる返済」という命題とを引き換えにしたのです。

 

 私は前科もなく、常識も知るまともな人間のつもりです。経営が安定し、刑法も大丈夫、株でも大きく儲けている時、「証取法違反でさえ、犯したくない」と思い、何度も取りつごうとしました。

 客注株の量が増え、投資ジャーナル銘柄だけでも10億円、20億円と、親金融から金を借りるようになっていた時、何度も、証取法も真っ白にしたいと思い、取り次ごうとしました。実際に少しの期間取りついでもみたのですが、しかし、私は大暴落のリスクを考えると怖くなり、取り次ぎを止めざるをえませんでした。

 東京証券信用は、当初、証取法上も、刑法上も白でしたが、7月より当時の弁護士の見解では、「証取法は灰色」「刑法上は白」となりました。そして、東京クレジットは消費寄託という考えを入れて、証取法上更に白に近づいた形でやろうといたしました。しかし、顧客が買ってきた株を一度買ってから売却するというのも損失が多く、すぐに売れるわけでもありませんので、もし大暴落が来た時のリスクを考えるとできなくなったのです。大前提の「経済的効果が同じ」ということが、大暴落時に成り立たなくなるからでした。



 私は、証取法と刑法と経営と、この三者のジレンマに陥り、そして時が過ぎるに従って、はっきりと「証取法」は灰色でも致し方ないと思うようになっていったのです。取り次いでいたら、大暴落が来た時、返済のできない可能性がなぜ生ずるかについて、最もよくわかっていただける例を挙げるなら、59年8月24日警視庁の強制捜査により、投資ジャーナル銘柄が大暴落いたしました時のことがよい例だと思います。



 8月23日時点でグループとしては、140億円分の評価の株券を担保にして、104億円親金融より借り入れしていました。ところが、強制捜査により大暴落して、140億円分の株券は100億円になってしまったわけです。

 すなわち、この大暴落によって一部の顧客への返済ができなくなったわけです。

 この当時、私は全ての顧客の客注株を持っていたわけではありません。おそらく、この当時なら、もう投資ジャーナル銘柄ですら、客注株を全部は保有していなかったことでしょう。もし、この時一株も取りついでいなければ、36億円のキャッシュが残っていたということです。

 この例から考えても、やはり大暴落時には取り次いでいない方が、「経済的効果を同じにして返済ができる」可能性は高いということです。



 以上の説明でわかってもらえたでしょうか。

 何度も何度もお読みいただけたら、必ずや私の言っていることが合理的であることを、わかっていただけるものと確信しております。もし、“おかしい”と思われたなら、それは金融や株に対して何らかの誤解があると思いますので、今一度角度を変えて率直に見ていただければ、ご理解いただけることと存じます。

***十一、事業家の精算義務

 顧客に返済を確実にし、さらに顧客と投資ジャーナルとが共栄共存するのに、最も良い方法が、取り次がないことだったのです。何度も申し上げたところです。
 ところが今、取り次がなかったことが詐欺に問われているのです。
 私は、経済的効果を同じにして返済するために、事業家としてあらゆる場合を想定して人智を尽くしました。8月24日の強制捜査により、経済的効果を同じにできなかったことは、人智を超えるものでございました。事業家として、預り金はその精算額に基づいて返済するということは、当然のことであり、最も優先せねばなりません。

 テレビ朝日専務故真坂専二氏が尊敬された故河野一郎先生は、「男の約束は法律に優先する」という言葉を残されましたが、これと同じレベルで、「事業家の精算義務は法律に優先する」とでも言えば、あるいはわかっていただけるかもしれません。
 「事業家の精算義務は法律に優先する」、そのためにあらゆる場合を考え、刑法的に許されると教えられた「経済的効果を同じにすればよい」ということを守り、かつ精算が確実にできる方法を取ったのです。
 そのことが、「取り次がないで精算をする」ということです。そのために証取法における「灰色」に目をつむったわけです。精算ということを最優先にしたこの私のとった方法は、法律論は別にして、精算という意味では間違っておりませんでした。何故なら、私がもし全部取り次いでいたとしたら、ガサ入れより5ヶ月前の、59年3月の投資ジャーナル関連銘柄の大暴落時に、すでに返済不能になっていたかもしれないからです。ああいった証券界マスコミ全体での投資ジャーナル叩きは、当初予想もしていなかったことだったのです。

 マスコミによるデマ報道、そして、権力を使っての投資ジャーナル叩きがあった時、何も知らない顧客は一斉に売りにきました。あの時、私が売りをそのまま市場に出していたら、さらにパニックとなり、59年3月に必ずや返済不能に陥っていたことでしょう。投資ジャーナル銘柄だけの暴落でしたから、私が場外で引き取り、それを取り次がなかったので何とか凌げたわけです。
 検事は、それをパニックになってもよいから売るべきだ、と言われますが、それはまさに現実の株の世界を知らない人の言葉です。とくに、お客様と私とは一心同体であると言う考えをしていた私には、とてもできないことでした。顧客と私とは、対立するものではなく、証券界においては、顧客は私の味方であり、私側の人間なのです。そして、私がその総大将であったのです。私には、顧客を大切に守る義務があったのです。
 もし、取り次いでいたとしたら、59年8月24日の大暴落でも同じように返済不能になっていたことでしょう。いや、8月24日においては、もっと顕著です。私が全部取り次いでいたとしたら、当金融を利用していた人が元金以上に損した金額は、膨大であったことでしょう。

 8月23日現在、客注株の合計は300億円~400億円近くあったはずです。「関東電化」だけでも、客注株が1000万株近く、6~7月時点で調べた時にありました。買いコストは、1株1600円近くだったと思います。1600円の買いコストの「関東電化」が、1600円から8月24日には1020円になったのです。もし、その通り実際に買っていたとしたら、この損金と手数料、金利だけでも70億円の損を会員全員でしていたわけです。
 更にその通り売っていたら、600円まで「関東電化」は寄り付かなかったことでしょう。千円幅としても、100億円会員全員で損となり、会員の皆様方は、私がもし親金融に取り次いでいれば、元金の70~80億円はおろか、その上に20~30億円の負担を負ったことになります。
 大暴落の時を想定し、取り次がなかったことは、皮肉にも、多数の8月23日現在の残存会員を救ったことになりました。外の投資ジャーナル銘柄の急落のことも考えるなら、会員を守るために逆に取り次がなかった私の読みは、正しかったことになります。

 このことを違う観点からみますと、投資ジャーナルは、逆に大量の債権を、債務とは別に、会員に対して保有していることになります。初期の取調べの時私は、元会員の方々の負債については問わないでほしいと申し出ていました。今から考えると、検察は私の持つ債権をできるだけ減らして考えたかったわけですから、私のこのような申し出は、検察にとって渡りに舟であったことでしょう。

 裁判長も私への尋問の時に、「元金で考えなさい」と言ってくださいましたので、私としては言うつもりはなかったのです。 
 ところが、論告で検察が、数理的思考の欠如により客観的事実に反する主張を述べていましたので、ここに敢えて一言付け加えることにしました。「8月24日においては元金以上のものを返済しなければならなかった」ということは、100%あり得ないことなのです。私が、7~8割のお客様は儲けて引き出したと言ったので、単純な算数的思考に基づいて、トータルでは返済する金額は元金以上になるとでも思考したのでしょう。しかし、もう一歩踏み込んで考えるなら、7~8割の儲けの人が儲けた金額より、2~3割の人が損した金額の方が大きいことは、当然あり得ることなのです。すなわち、返済金額が元金以下になることは当然あり得ることなのです。まして今、述べてまいりました「8月23日の顧客よりの客注株と私の手持ち株との比率」、「59年3月以降の暴落」、そして「59年8月24日以降の大暴落」を考えるのなら、投資ジャーナルは黒字倒産したことになるでしょう。
 何故なら、元金以上の精算となる顧客に対しては、最高でも50億円の債務を負うだけですが、逆に元金以上に損をした顧客に対しては、相当額の債権を持つからです。私が考えていた一般的暴落以上の影響を受けたわけですから、顧客全体の建て玉としては、当然のことなのです。
 成功報酬に絡んでの検察の主張が、いかに浅薄な考えであり、数理的に嘲笑すべきものであることを分かっていただけたことと思います。

 これに類似したことは、他に幾つもあります。検察は、自分達の考え方が正しいと思い込んでいるだけに過ぎません。この投資ジャーナル事件が、いつの日にか、司法修習の場で学習の題材となり、十分な解明がなされたならば、担当検事の金融、株、経理、数理に対する無知無能さが露呈され、笑いものとなることでしょう。

 私は事業家として、「返済」ということを第一義に考え続けました。そして、実際に「返済」を続けました。「騙し取ろう」などという気持はサラサラありませんでしたし、また、返済しないことなど考えもしませんでした。
 59年3月以降の、あのような混乱の中でも、事業家、経営者として返済するために最大限の努力をいたしました。返済に努力をしたことは、私のみならず、全ての投資ジャーナル社員がそうでした。返済をし続けることは、全社員の総意でございました。このことは多くの証言で十分に裁判長におわかりいただいていることと確信しております。

***十二、返済状況と返済能力ー昭和59年3月以降について

 59年3月以降のことを少し述べておきます。
 59年3月初めより、59年6月初めまでは、顧客からの預り金について会社として返済延期のお願いをいたしました。しかし、延期されたとはいえ、顧客へは100%返済されております。59年6月初め、私が会社に復帰してからは、返済を分割にするようにお願いした人もありました。しかし、分割になったとはいえ、100%返済していくつもりでしたし、分割の約束分についてはキチンと支払っておりました。それに関する何百枚という書類が、スケールに入って押収されていますので見てください。

 59年2月末、返済能力は120%ございました。59年3月に入り、大手証券による投資ジャーナル銘柄叩きが行われましたが、6ヵ月後の59年8月現在でさえ、返済する能力は100%あったのです。
 先程も述べましたように、検察側が8月24日現在において顧客へ返済すべき金は元金プラス利益金であると主張するなら、顧客の損失金については当然マイナスしなければなりません。8月24日現在では当時投資ジャーナル銘柄は大きく下げているわけであり、顧客の評価損は莫大なものでありました。すなわち、8月24日現在の顧客の損得を元金にプラス、マイナスするなら、返済すべき金はもっと少なくなるはずです。まして、善良なる顧客への返済を優先するために、多くの顧客と示談をしているのです。20~30億円はしていると思います。
 元金として8月に返済すべき金額は、損得を裁判長の言われるプラスマイナス0として考えて、70~80億円であり、示談した金額が20~30億円ですので、返済すべき金額は、8月23日現在どんなに多く見積もっても、50億円です。破産管財人の債務報告金額には控除すべき顧問料が入っているのです。また、預り証の未回収分を偽って報告したり、あるいは預り証の偽造が含まれているのです。
 本来なら、この50億円から含み損を引いてもらわねばならないのです。何故なら、多かれ少なかれ皆様、「関東電化」は買っておられたからです。その損金分が少なくとも存在します。また、先程も述べましが、会社としては、元金を割った顧客に対する厖大な金額の債権を保有しております。
 当社は、投資ジャーナル銘柄については、最大公約数の株は保有していたわけであり、個別に各顧客と争うなら、対応する資産を保有していた証明をすることができるのです。すなわち、各顧客に対して債権を持っているからです。

 ただこのようなことは私としてはしたくありません。これらのことは全て割り引いて考えたとしても、8月23日投資ジャーナルには、40億円の現金扱いとみなされる資産が、警視庁の調べだけでも明らかになっており、ベンチャーキャピタルとしての貸し付け金の20億円(実際は30億円です)や、その他洩れている資産を合計するならば、十分なる返済資金はあったわけです。
 8月24日、もし私が全株を取りついでいたとしても同じことなのです。同じように、被害者は出たのです。何故なら、当局は、「まさに、被害者を出すためにガサ入れをしたからです。」
 証取法の無免許売買という罪でガサ入れをしたことが、それを証明しております。実際に買っていても、「無免許売買」ということでガサ入れし、故意に被害者を出したのです。目的が、被害者を出すことだからです。そのために、ガサ入れすると共に、投資ジャーナル銘柄の株価を叩いて、故意に下げさせたのです。そして、担保価値を下げ、全てを終わりにさせたわけです。
 警視庁トップは、個人的な思惑をもとにガサ入れし、意図的に大きな事件となるように、マスコミにレクチャーし、ガサ入れと共に、大手証券は投資ジャーナル銘柄を暴落させたわけです。彼らにとって、取りついでいないかどうかは、どっちでも良いことだったのです。それが証拠に、その後証券取引法では起訴されていません。

***十三、創り出された被害者と違法なガサ入れ(別件捜査)

 管財人が聞いた大蔵省と証券取引所の見解では、証券類似行為(無免許売買)にはあたらないということです。「無罪」の法律によってガサ入れをし、被害者を出し、その被害に基づいて改めて詐欺で起訴したわけです。
 実際、この手の事件は、通例として被害者が出てから当局が動くはずです。それが何故、被害者が出ていない段階でガサ入れをしたのでしょうか、それは投資者ジャーナルを「潰すこと」によって、メリットを得る人々がいたからです。
 被害者の方々というのは、かつては私にとっては大切なファンであり、大切な顧問先であったわけでございます。私は事業家、経営者として、「返済」を大前提としておりました。それを返済できなくしたのは、権力の横暴としか言いようがありません。被害者の皆様方や投資ジャーナル社は、投資顧問法設立のために犠牲となったのです。
 返済できなくしたのは、私ではなく、まさに一部国家権力の横暴です。8月24日、取り次いでいても返済できなかったわけであり、私は事業家、経営者、社会人として反省はしても、良心に恥じるところはありません。

 私は、一部国家権力の腐敗しきった魔の手から、大切な会員を守ることはできませんでした。
 最後の最後まで、返済のために努力は続けました。そして現在においても、返済の意志には何ら変りはございません。必ず事業家、経営者として、お借りしたお金は返させていただきます。当たり前のことでございます。

 以上、長々と述べましたが、どのレベルまでご理解いただいているか、わかりません。くどくなったところはお許しください。
 より良い投資指導のために証券金融を始め、顧問弁護士団が「刑法違反ではない」と言うので、取りつがなくなり、59年2月末までは100%返済し続け、59年4月以降も遅延はあったものの、返済する考えで全社一丸となってやってまいりましたし、また、返済する能力も十分あったということです。
 事業家、社会人の一人として、何らやましいところはありませんでした。経済的効果を同じにするために、人智の限りを尽くしました。しかし現実は、私の予想を遥かに越えるものでございました。8月24日の強制捜査は、別件逮捕ならぬ別件捜査ともいうべき違法なものであり、私にはどうすることもできなかったのです。

(つづく)

001 相場師中江滋樹の弁明-目次等

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