査察Gメンを犯罪人として告発!!-⑮

 判例7.



 法人税法違反事件についての最高裁の判決である。原審は東京高裁(昭和35年4月27日判決)。また第一審は東京地裁(昭和34年10月10日判)であり、犯則事件があったとされるのは、

-昭和31年3月期事業年度と

-昭和32年3月期事業年度

である。この犯則事件があった時期は、いまだ基本法たる国税通則法が制定されていない時であることに加え、当時の法人税法には目を疑うような怪しげな規定が存在していたことを予め指摘しておかなければならない。

 怪しげな規定とは他でもない。罰則が規定されている同法第48条の第3項がそれである。 法人税法第48条
①詐偽その他不正の行為により、(略)の規定により申告をなすべき法人税を免れ、又は(略)の規定による金額の還付を受けた場合においては、法人の代表者、代理人その他の従業者でその違反行為をなした者は、これを三年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
②(略)
③第一項の場合においては、政府は、直ちに、その免れた法人税額または還付を受けた金額(略)に相当する税額の法人税を徴収する(下線は筆者)。



 上記は法人税法の規定であるが、同様の規定は所得税法にも存在しており、その概要と問題点の一部についてはすでに本稿の⑧で述べたところである。

 ここでは、その他に由々しき問題点が発見できたのでそれを指摘する。それは上記の引用条文で、筆者が下線を引いた、「その免れた法人税額を徴収する」という文言の中の、「徴収する」という言葉だ。

 税を“徴収”するというのは、当時の物品税とか酒税など賦課課税方式の税目に用いられる言葉であり、法人税とか所得税など申告納税方式の税目には用いられないものだ。

 申告納税方式の税目については、税は納税者が“納付”するものであって、政府が“徴収”するものではないからだ。

 つまり、法人税などは納税者が納付すべき税額を自分で計算して確定する筋合いのもので、決して政府が納付すべき税額を確定するものではない。政府が納入すべき税額を確定することができるのは、物品税などに限られるということだ。

 以上のことを念頭に置いた上で判例7.を検証することにする。

 第一審の判決(東京地裁、昭和34年10月10日)によれば、犯則事実は、「被告会社は、非鉄金属の電気分解並びに製品の販売等を営業目的とする株式会社であり、被告人は右会社の代表取締役として会社の業務一切を統括しているものであるが、被告人は被告会社の業務に関し
1.法人税を免れる目的をもって売上除外等の不正な方法により、
2.昭和30年4月1日より同31年3月31日までの事業年度において、被告会社の
 (イ)実際の所得金額が、17,759,321円であったにもかかわらず、
 (ロ)昭和31年5月30日所轄神田税務署長に対し、
 (ハ)所得金額は8,364,700円である旨虚偽の確定申告書を提出し、
 (ニ)もって同会社の右事業年度の正規の法人税額7,078,720円と右申告税額3,268,360円との差額3,810,360円を逋脱し、
3.昭和31年4月1日より同32年3月31までの事業年度において、被告会社の
 (イ)実際の所得金額が、13,702,292円であったにもかかわらず、¨C22C  (ロ)昭和32年5月30日所轄神田税務署長に対し、¨C23C  (ハ)所得金額は7,149,812円である旨虚偽の確定申告書を提出し、¨C24C  (ニ)もって同会社の右事業年度の¨C67C5,455,880円と右申告税額2,819,830円との差額2,636,050円を逋脱したものである。(下線は筆者)」と判示され、特定されている。

上記の判示内容を分かり易く言えば次のようになる。「この会社は2年間脱税をしていた。脱税額は、初めの年は381万円、次の年は263万円である。その計算根拠は次の通り。

項目1.実際の所得金額2.申告所得金額増差額
(1.-2.)
3.正規の法人税額4.申告税額脱税額
(3.-4.)
昭和31年3月期17,759,321円8,364,700円9,394,621円7,078,720円3,268,360円3,810,360円
昭和32年3月期13,702,292円7,149,812円6,552,480円5,455,880円2,819,830円2,636,050円


つまり、初めの年(昭和31年3月期)は所得を939万円ゴマかして、381万円脱税し、次の年(昭和32年3月期)は所得を655万円ゴマかして、263万円脱税した。」 犯則事実についてザックリ言えば上記の通りである。

 第一審判決は、犯罪事実を上記のように認定した上で、「納税義務者が法人税逋脱の目的をもって虚偽過少の確定申告をなし、右虚偽申告の後更に正当な税額を納付しないで所定の納付期限を経過すれば、ここに逋脱罪は既遂に達するものと解すべく、即ち法人税法四十八条にいう「申告をなすべき法人税を免れ」とは納税義務を消滅させることの意味ではなく、法人税法の要求するところは、その納期に、正当な税額が納付されることに鑑みれば、その納期においてあるいはその税額の点において法の要求するところが正しく実現されなかったとき、ここに政府からすれば法人税収納減少の事実、納税義務者からすれば「法人税を免れた」事実の発生があったものと解するのが相当である。(下線は筆者)」と判示し、「逋脱罪は納期の徒過により既遂となる」ことについて、具体的に述べている。

 この判例7.の第一審判決は、まさに“独自の見解”のオンパレードであり、ツッ込みどころ満載の迷(!!)判決である。(この項つづく) 

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 ここで一句。 ”自民党美学・不倫の幅広さ” -三鷹、ガス橋(毎日新聞、平成28年3月27日付、仲畑流万能川柳より)

(イヨッ!さすが政権与党!たいしたエライ!!)

  

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