民主党政権の置き土産-偽りの査察調査-号外(任意調査と強制調査)
- 2013.10.15
- 山根治blog
国税職員の質問検査権は、税務調査の実効性を確保するために、罰則によって担保されている。
その罰則とは次のようなものだ。
+国税職員の質問に対して、
++答弁せず
++偽りの答弁をし
++検査、採取、移動の禁止、封かんの実施を拒み、妨げ、もしくは忌避した場合、あるいは、
+国税職員の物件の提示・提出要求に対して、
++正当な理由なく拒否した場合、
++偽りの記載もしくは記録した帳簿書類その他の物件(その写しを含む)を提示し、もしくは提出した場合、
上記、1.の1.~3.及び2.の1.~2.を行なった者は、
+1年以下の懲役、又は、
+50万円以下の罰金
に処するとする罰則規定だ。
質問検査権にもとづく税務調査は、罰則を背景にした調査である。このような調査が、どのように言いつくろうとも「任意調査」であるわけがない。強制調査そのものだ。
ところが従来、税務当局は任意調査であると言い通してきた。
このたびの国税通則法の改正にあたって、「Q&A新税務調査手続パーフェクト・ガイド」と題した雑誌が発行されている。「税理」3月臨時増刊号(March 2013. Vol.56 No.4)だ。
この雑誌、発行は(株)ぎょうせい、監修は日本税理士会連合会である。国税当局の広報誌と考えて差しつかえない。尚、(株)ぎょうせいは、平成24年12月に、麻生太郎財務大臣を含む麻生一族の会社である(株)麻生(注)に買収された。行政と一体となっているこの会社、収益性抜群の優良会社である。
その臨時増刊号では、わざわざ任意調査と強制調査の項目を設けて、誤解をまねく説明をしたり、偽りの説明を行ったりしている(同誌、P.55)。
まず、誤解をまねく説明は、(参考)として掲げられた次の判例だ。
質問検査権の法的性格については、従来から、「質問検査に対して相手方は受忍すべき義務を一般的に負い、その履行を間接的心理的に強制されているものであって、ただ、相手方においてあえて質問検査を受忍しない場合にはそれ以上直接的物理的に右義務の履行を強制しえない関係を称して一般に「任意調査」と表現されている」(最判昭48.7.10)とされています。
「改正税法のすべて」230頁より引用』
冒頭で説明した罰則を念頭に置いて、上の判例を見ると、この判例、一体何を言おうとしているのか分からなくなる。
たしかに納税者に受忍義務があるのは事実だ。しかし、その義務は、判例の言うように「その履行を間接的心理的に強制されているもの」といった甘っちょろいものでは断じてない。「あえて質問検査を受忍しない場合にはそれ以上直接的物理的に右義務の履行を強制しえない」どころではない。逆である。
義務を履行しない場合には、刑事罰が用意されているのであるから、文字通り、「直接的物理的に」義務の履行が強制されているのである。
一体、法律のどこを、どのようにいじくれば判例のような戯言(たわごと)が繰り出せるのであろうか、不思議としか言いようがない。
次に、明らかに誤りであり、偽りである説明がなされているのが、図表Ⅲ-2として掲げられている図表である。誤りであるだけでなく、更に踏み込んで偽りであるとするのは、誤りである説明の裏に、納税者を騙く意図が透けて見えるからだ。
***図表Ⅲ-2
^^t
^cx^区分
^cx^任意調査
^cx^強制調査
^^
^法的根拠
^質問検査権(国税通則法)
^強制調査権(国税犯則取締法)
^^
^処分
^行政処分
^行政処分と刑事処分
^^/
この図表の誤りは2つある。
一つは、区分において任意調査と強制調査とが逆になっていることだ。国税通則法に規定されている質問検査権こそ強制調査に区分されるべきもので、国犯法に規定されている質問検査権(国犯法第1条)には強制力はなく、任意調査に区分されるべきだ。国犯法で付与されている強制力は、臨検・捜索・差押(国犯法第2条)についてだけであって、メインの権限である質問・検査・領置については、国税通則法のそれらと異なり強制力を持っていないのである。すでに、「民主党政権の置き土産-偽りの査察調査-⑦」で述べたところである。
二つは、処分の欄の誤りである。国税通則法に規定する質問検査権にもとづいて行政処分(課税処分)ができるのはその通りである。
しかし、国犯法に規定する質問検査権にもとづいて、刑事処分(告発)だけではなく、行政処分までできるとされているのは誤っている。国犯法にもとづく査察調査では、刑事処分ができるだけで、行政処分はできないことについては、すでに「民主党政権の置き土産-偽りの査察調査-⑥」で述べたところである。
この記載誤りについては、単なるウッカリミスではないのではないか。長年の間、査察に関して国税当局で取り扱われてきた部外秘のマニュアルが、何ら訂正されることなく、そのまま掲載されたということではないか。
あるいは、立法当事者とか国税当局の意を受けたこの臨時増刊号の執筆者が、法改正を契機に国犯法の欠陥が露わになったことに気がついて、慌ててカムフラージュしようとして、敢えてこのような誤った記載をしたとも考えられる。いずれにせよ、偽りであることに変りはない。
(注)(株)麻生。本店、福岡県飯塚市。非上場、有価証券報告書開示No.E01209。
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ここで一句。
(番宣だけ? 新商品、会社、政府、政党の宣伝もニュースの中にしっかりと。)
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