中江滋樹氏との再会-②

 私の手許に膨大な量の未公開文書がある。中江滋樹氏が逮捕され東京拘置所に勾留されていたときに、独居房の中で書き上げた文書である。第一審裁判の最終弁論のために用意されたものだ。中江氏は、便箋1,000枚分を書き上げる!と宣言して書き始め、一気に書き上げた。

 第一審裁判の結審を前にして、裁判長に直接訴えかける形式の文書は、現実の株式と現金の動きを克明に辿り、自らが中心となって行った行為は正当な商行為であり、決して詐欺にはあたらないことを証明したものだ。

 一般の簿記会計ではなく、現実の資金の流れ(資金会計)からの解明は理路整然としたものだ。当時この文書に初めて接した私は、こみ入った数字を自在に操り、整然と論理展開をする中江氏に驚きを隠せなかった。

 私は中江氏の文書を念頭に置きながら、一般的な簿記会計の手法で中江氏の結論と同様の結論を導き意見書にまとめ上げた。ただ私の意見書は、中江氏の所論が正しいとする、二次的・補足的なものにすぎない。それほど中江氏の所論が、完成度の高いものであったということだ。

 その後、中江滋樹氏ら幹部と投資ジャーナル社とその関係会社に対して民事裁判が起され、それに伴ってグループ会社と個人に対する破産の申立てがなされた。
 その結果、7,684人の利用者から合計で580億円を詐取したとされていたが、そのうち400億円が利用者に弁済されたとのことである。この詐取額と弁済額については、ネット情報によったが、私は未確認である。
 仮にこの詐取額580億円と弁済額400億円が事実だとするならば、弁済率は実に69%となり、破産事件、ましてや詐欺にからむ破産事件においては普通ではありえない数値である。詐欺にからむ破産事件は、通常、弁済率が10%を超えることはまずないからだ。
 このことは何を意味するか。もともと詐欺でも何でもなかったということだ。中江氏が当時独自の証券金融システムを考案し、顧客のために絶妙なリスクヘッジを図っていたのである。用意周到なリスクヘッジ、これこそ相場師であり投資コンサルタントとしての中江滋樹氏の真骨頂だ。
 このことは別の観点からも説明できる。投資ジャーナルグループが投資家から受けた株式売買注文は12億株、7,000億円相当とされている。このうちの4,500億円相当は、グループ内の証券金融会社からの融資によっているため実際の株の売買は対外的にはなされていない。警視庁はこの株の売買を証券会社に取り次がなかった事実を「ノミ行為」とみて、昭和59年9月のガサ入れ時は証取法違反にあたるとして大騒ぎしたのであるが、ガサ入れ後、違法行為ではないことが判明、急遽、容疑を詐欺に切り換えた経緯がある。苦しまぎれの犯罪のスリ換え、犯罪のデッチ上げである。
 7,000億円の売買注文のうち、4,500億円がグループ内に留保されていたのであるから、株式相場がいかに崩れようとも、64%(=4,500億円÷7,000億円)のヘッジが常になされていたということだ。その上、ほとんど全ての顧客は中江氏が推奨した銘柄によって大きな利益を受けている。その利益に対しては成果報酬として概ね30%の報酬支払義務が各顧客に発生しているわけであるが、ある一定時点、つまり昭和59年9月のガサ入れ時点で区切った場合には、顧客の債権控除項目である未払報酬の額が未計上の状態で放置されていた。
 証券金融会社によるヘッジと、この顧客による成果報酬支払義務額を加味すれば、先に記した69%の弁済率は十分に納得のいく数字となる。

 中江氏の手書きによる膨大な文書については、今から7年前に中江氏を偲んで公表しようとしたことがあった。そのために、相当以上の時間を費やして、見出しと目次を整備し、若干の語句を追加・修正し、図表と文脈を整え、中江滋樹氏と私、山根治以外は仮名にして、ワープロに打ち込んでいたのである。森鴎外が『羽鳥千尋』を書いた心境であった。
 今後、中江滋樹氏の了解が得られるならば、何らかの方法で公開するつもりである。

(この項おわり)

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 ここで一句。

“週刊誌 経済を読む 裸見る” -津山、鉄の馬

(毎日新聞、平成25年4月2日付、仲畑流万能川柳より)

(週刊誌、値打ちの順に並べれば、一にヌード、二にゴシップ、三、四がなくて五にヤクザ。週刊大衆、アサヒ芸能、週刊実話、-我が愛読誌。)

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