認知会計からのつぶやき10-政治・経済・歴史を認知会計の視座から見つめ直す-
- 2013.03.12
- 山根治blog
***1.脱税犯罪の特殊性
査察が脱税犯罪の廉(かど)で嫌疑者を告発するためには、「税を免れたこと」と「偽りその他不正の行為」の2つの要件が必要。中でも「税を免れたこと」を客観的に確定する手続として、嫌疑者による自主的な修正申告がある。査察は騙したり脅したり利益誘導したりして、なんとか修正申告にもっていこうとするが安易に応じてはいけない。査察が創り上げた「脱税ストーリー」が仮に荒唐無稽なものであったとしても、修正申告に応ずれば「税を免れたこと」を自ら認めたこと、つまり自白したことになるからだ。
ちなみに、修正申告に応じない場合には、更正処分がなされるが、査察調査の場合はこの更正処分をすることが容易ではない現実がある。とくにこの段階での税理士の関与が重要となる。
***2.査察の暴走をチェック-①
脱税の要件の一つである「偽りその他不正の行為」は、実務的には「仮装・隠蔽」と同じものとして扱われている。しかし、この2つは全く異なったもの。「偽りその他不正の行為」は刑事罰を課すための要件であるのに対して、「仮装・隠蔽」は行政罰である重加算税を課すための要件。査察の暴走の最大の理由は、この両者を同一視していること。両者を峻別して対応することが査察の暴走をチェックする第一のポイント。
通常の税務調査の場合も同様で、「仮装隠蔽」を平気で「不正」と称している。「不正」とか「不正認定」という言葉を使うのは、不正の摘発、犯罪の摘発といった誤ったメッセージを納税者に伝えるもので、国税通則法で厳しく禁じられているものだ。
通常の税務調査であっても、納税者が恐怖感を抱くのは、税務職員が法で禁じられていることを平然として行っているからだ。とくに資料調査課の調査(俗に料調)は、法の規定を潜脱したもので違法である。
***3.査察の暴走をチェック-②
通常の課税手続きはもちろんのこと、刑事手続きの一環としてなされる査察手続きについてはより一層厳格な「適正手続き」が求められている。不適正な手続きによって査察がなされた場合には、それによって得られた証憑(物的証拠、とくに書証=証拠物たる書面)が無効になる可能性あり。ガサ入れ時から克明な記録(「強制調査ノート」)を残しておくことが、犯罪的な査察から身を守る唯一の方法。ICレコーダー等による録音があれば更によい。査察の質問・検査は任意であり、令状がない限り、身体検査をしたり、ICレコーダーを押収したりすることはできない。
***4.査察の暴走をチェック-③
国犯法は、明治33年に制定されてから基本的に変っていない。国民の基本的人権を無視した典型的なザル法。ザル法であるからといって好き勝手なことができる訳ではない。ザル法に歯止めをかけるのは、現行の刑事訴訟法と国税通則法。
査察は脱税事件の証憑(証拠)を収集して、脱税という犯罪の嫌疑の有無と脱税行為者(嫌疑者)を確定させる手続き。検察官への告発を目的とし、告発を受理した検察官は起訴についての判断を加えた上で、起訴し刑事法廷の場へ。
収税官吏(査察官)が収集した証憑が現実の刑事法廷に提出(又は隠匿)されることは、この証憑(証拠)が、刑事訴訟法の規定に従って証拠能力について厳しくチェックされることを意味する。
***5.脱税とは何か。
脱税とは、偽りその他不正の行為によって税を免れること。「税を免れた」だけでは脱税にはならない。
+「偽りその他不正の行為」(偽計行為)
+「税を免れたこと」
+1.と2.に相当因果関係があること
+1.と2.について行為者の認識(故意)があること
1.~4.が全て満たされてはじめて脱税となる。現在の査察の多くは、専ら2.の「税を免れたこと」に集中し、1.の「偽りその他不正の行為」については、予め創られているストーリーに沿った自白を捏造することによって代用している。1.は2.と同様、客観的かつ具体的な事実であるにもかかわらず、行為者の認識(故意)にスリ替えている。犯罪構成要件と故意とのスリ替え。
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