マルサ(査察)は、今-⑤-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から

***4.強圧的な尋問

 ガサ入れの直後から、質問(国税犯則取締法(以下、国犯法という)第一条)という名の尋問が始まった。強圧的な取り調べである。『これは普通の税務調査ではない。脱税という犯罪を摘発するための捜査だ。刑事告発することを念頭に置いていることを忘れないで欲しい。しかも、事前に十分に調べて証拠を握った上で来ている。ありのままを喋った方が身のためだ。嘘をついてもつききれるものではない。素直に話さないとこちらの印象が悪くなるだけだ。言う通りにしないと罪の上塗りをすることになるだろう。1億円以上の脱税をしていることは分かっている。自分から進んでこの事実を認め、具体的な内容を正直に話すことだ。』

取り調べの場所は前述の密室だ。有無を言わさずこの部屋にぶち込んで二人の査察官(国犯法上の正式名称は収税官吏、つまり“みつぎとり”である)が覆いかぶさるようにガンガンまくしたてる。逮捕をほのめかしての脅迫、自白の強要である。
 嫌疑者は何が何だかよく分らない。これまで全て税理士任せであった。税理士に言われるままに、売上や仕入の数字を渡し、請求書とか領収証を全て税理士に渡してきた。自分で帳簿をつけていない。税理士事務所が全てやってくれていた。申告所得だ、決算書だと言われても実のところよく分からない。税理士事務所に全ての資料を渡して、決算を組んでもらい申告してもらっていたからだ。記帳のアウトソーシング(記帳代行)、決算、税務申告書の作成を全て税理士事務所に丸投げしていたのである。

 令状を手にしてズカズカと押し入り、身柄を事実上の拘束状態において脅し上げる。ヤクザ顔負けの所業である。
 嫌疑者はこれまでも仕事上のトラブルで恐い目にあったことは何度かあった。しかし、このたびのように心底から震え上がるような思いをしたことはない。これまではトラブルの原因が自分でもよく分かっていたし、自らの裁量でなんとか切り抜けてきた。
 ところが、今度だけは様相が全く異なっている。脱税という犯罪の嫌疑者とされ犯罪人扱いされているからだ。しかも1億円以上の税金をゴマかしたと一方的に決めつけられている。
 何故このようなことで脅されるのか理解ができない。思考が停止し、パニック状況となった。

 たしかに全くの潔白かと言えば嘘になる。思い当たることがない訳ではない。
 昨年のことである。平成23年3月11日、未曾有の大地震と大津波が東北地方を襲って日本は大混乱に陥った。通信、交通網は分断され、東北地方だけでなく、関東地方も大きな打撃を受けた。
 流通物資が欠乏し、多くの品物で品薄状態となった。嫌疑者に限っていえば、扱っていた商品の品薄状態が幸いして、店舗売上が急増した。このままだと利益が出て税金を払わなければならない。
 そこで毎日の売上の数字に手をつけた。レジの集計金額を1日当り10万円ほど少なくして売上集計表を作成、これが決算月まで約半年ほど続いた。
 つまり、嫌疑者の会社の平成23年××月期の売上高を1,000万円余り少なく申告していたのである。つまみ申告である。

 嫌疑者は、査察調査の初めの段階で、売上金の一部を抜いていた事実を正直ありのままに話した。

『申し訳ございません。実は大震災の後で店舗も混乱していましたし、つい売上金に細工をしてしまいました。一日当たり10万円位だったと思います。ただし、このようなことは、この半年ほどだけのことで、それ以前の売上金については一切の細工をしていません。』

 二人の査察官は納得しない。金額については10万円ではなく、もっと多いはずだ、期間についても、平成23年××月期の半年間だけでなく、過去もずっとやっていたのではないかと疑い、追及してきた。
 査察が予め作成している「脱税ストーリー」に合わないのである。想定していた脱漏所得(不正所得)の10分の1にも満たないからだ。
 売上金の他に、嫌疑者が認めている仕入と人件費の水増しを加味しても想定脱漏所得の5分の1程にしかならない。これでは告発基準(山根注、東京国税局の場合、3年間で概ね1億円以上の不正所得とされているようだ)に遠く及ばない。査察官にようやく焦りの色が見えてきた。

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 ここで一句。

“ハンドルに遊びがないな橋本氏” -鳴門、かわせん

 

(毎日新聞、平成24年6月1日付、仲畑流万能川柳より)

(脱原発で威勢がよかった橋本氏、何故かトーンダウン。口舌の徒、三百代言で終るのか?)

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