マルサ(査察)は、今-③-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から

***2.マルサの取調室-その2

 大手町合同庁舎3号館の4階にある一室。入口の内開きのドアに「D-1」の表示が、部屋の奥にあるプリンターの側面には「取調室D-1、国税庁・税務署」の表示がなされていた。取調室D-1の内部の配置は次のようであった。入口右側の壁には直径25cmほどの時計が掛けられていた。

<取調室D-1の内部配置図>
<%image(20120612-blog_img.png|448|518|東京国税局:取調室)%>

 壁、天井は白一色、部屋の中は蛍光灯の明かりでやけに明るい。
 私は16年前に逮捕・拘留されていた松江刑務所拘置監の独房(「冤罪を創る人々 2)逮捕当日-別件逮捕-の一九」参照)を想い出していた。よく似ているのである。
 刑務所の場合、外部から独房に入るまでには、3つのドアを通らなければならない。まず、刑務所に入るには正面の大扉が待ち構えている。次は管理棟から収容棟に移る際の扉である。三番目が独房の鉄の扉だ。いずれも前時代的な錠前がついていた。

 東京国税局査察部の取調室に入るには、まず1階のゲートを通らなければならない。4人程のガードマンが厳しくチェックしており、誰でも気安く立ち入ることはできない。次は、4階の取調室がまとまっているエリアへの入口のドアである。三番目が先に図で示した取調室のドアである。ドアは内開きだ。
 ちなみに、4階にあるこのエリアには、同様の取調室が20室ほどあるようだ。A、B、C、Dと区分けされ、それぞれ4室ずつで16室、その他いくつか予備的な部屋があるという。
 東京国税局の査察の実働部隊は、現在査察第1部門から査察第36部門までの33部門(18~20は欠番)である。371人の陣容だ(平成23年10月現在)。
 このうち、査察第1部門から第17部門までは、内偵調査部門であり、ナサケ(情)と称されている。人数は、196人、総括する査察総括第一課の30人を含めて226人の陣容だ。
 嫌疑者に直接対峙するのは、査察第21部門から第36部門までの16部門であり、ミノリ(実)と称されている。人数は、175人、総括する査察総括第二課の17人を含めて192人の陣容である。
 私が接触したのは強制調査実施部隊である査察第31部門だ。統括官以下、11人が所属している。
 取調室が16プラスαだけ用意されているということは、ミノリの各部門に一室ずつが割り当てられ、更に予備の部屋がいくつかあるということであろう。

 たしかに、査察の取調室は刑務所の拘置監の独房と似てはいたが、大きく異なる点があった。窓が全くないことだ。更に言えば、部屋は白一色、明るすぎる。通常の2倍の蛍光灯が天井から照らしている。犯人の自白を強要する場面で、容疑者の顔に直接電気スタンドの明かりをぶつける刑事ドラマのシーンを連想させるものだ。
 脱税の嫌疑者(犯則嫌疑者)を有無を言わさずに呼びつけ、長時間にわたってこのように異常な空間に閉じ込めて尋問するわけだ。外部から遮断された密室で、脅したり、すかしたり、騙したりと、およそナンデモアリの尋問が二人の査察官によって延々と続くのである。このような状態におかれれば、ほとんどの人がパニック状態に陥ることは必定だ。現代の拷問部屋である。

 脱税の嫌疑者の場合、一般の刑事事件の容疑者と決定的に異なっていることがある。何故脱税の嫌疑をかけられたのかほとんどが理解していないことだ。一般の刑事犯の場合、被疑事実は一般の常識の範囲内で容易に理解できるのに対して、脱税犯については、嫌疑事実が示されたとしても常識の範囲内で理解できないことが多いからである。
 綿密な脱税計画を練った上で脱税に及んでいるケースは、仮にあったとしてもほんの一握りである。ほとんどのケースが、ごく普通に決算を組み、税務申告をしている。犯罪としての脱税など毛頭も考えたことのない人達が大半だということだ。
 それがある日突然、捜査令状(臨検捜索差押許可状)を振りかざしてガサ入れし、身柄拘束と同様の状態で密室に放り込んでは尋問を繰り返し、脱税の自白を迫るのである。予め用意された脱税ストーリーを、査察調査の初めの段階で無理矢理認めさせようとするのが、マルサの常道だ。自らがどのような罪を犯したのか、ほとんど分らない状況の中で、予め作成された「脱税ストーリー」を強引に認めさせようとするのである。虚偽の自白の強要だ。
 嫌疑者以外の第三者を排除し、一人だけにして、虚偽の自白を強引に引き出す特殊な密室、それが査察の取調室だ。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“一億の命ドジョウの一匹分” -八幡浜市、木村瞳

 

(朝日新聞、平成24年6月2日付、朝日川柳より)

(選者評に曰く、私の責任でと首相。役人の走狗、暗愚の宰相、日本と人類の不幸。敬愛する安部譲二さん、野田首相が財務省の使い走りであることを喝破、さすがである。「再起動と再稼働」-あんぽんたんな日々第182回、2012.6.9

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