高松国税局-恐喝と詐欺による天下り-⑤

 私が想定する犯罪の構図は次のようになる。



 これまで可もなく不可もなく過ごしてきたノン・キャリアの税務職員、-40才半ばになってようやく局の課長補佐にまで辿りついた。あと10年勤めを続けたところで、二番手、三番手の税務署長になるのが関の山。この先は知れたものだ。すでにタナボタの税理士資格は手に入れた。税務署のゴマカシ方も分かったし、納税者をたぶらかす術(すべ)も身につけた。余生は税理士で稼いで楽な生活をしたい。辞(や)めるなら今が潮時だ。

 このような時に中学校の同窓会があった。30年振りだ。同窓の女性から相談を受けた。女性はホステス、男から男へと渡り歩いてこれまで生活してきたが、最近金ヅルの男に逃げられた。次のカモを捜さなければならない。男のあしらい方は慣れたもの。その後何回か話し合いを重ねるうちに男女の関係ができた。今更、惚れた腫(は)れたの年ではない。お互いに相手を利用しようとする思惑と打算があった。この時、共に47才。

 寝もの語りに、ユスリの計略ができ上がった。ホステスである情婦の役割は、ネライをつけた会社の副社長を籠絡すること。この人物、会社のウラ金の一切を取り仕切っている金庫番である。

 男は女に、この副社長との情交を示唆、女はそれに応じて副社長をネライ通り情夫にする。一人の情婦と二人の情夫といった図式ができ上がった。

 税務職員が描いた犯罪の絵図(えず)に欠かせないものがあった。従来から会社にもぐり込んでいる税務署OBの税理士だ。会社にとって獅子身中の虫、二人いるが共に顔なじみである。これを利用しない手はない。
 これで全ての役者が出揃った。主役である税務職員、介添役のホステス、副社長、二人の税務署OB税理士。恐喝・詐欺の5人衆である。犯罪の全体像を構築し、全てを知っているのは主役の税務職員唯一人、あとの4人はそれぞれ与えられた役割を果して、分け前に与(あずか)るだけである。チームを組んで強盗に押し入るのと何ら変らない。

 ターゲットとなった産廃企業、グループの一員にゼネコンも抱えている。公共事業や原発関連でアブク銭をしこたま手にしている。あくどいやり方で稼いでいるのはしっかりと調べてある。二人の顧問税理士にアタリを入れてそれとなく探った。間違いない。叩けば埃(ほこり)だらけだ。企業経営に、裏金がしっかりとビルト・インされており、裏金体質から抜けることができない企業である。二人もの税務署OBを雇わざるを得ないのは、身にやましいことがあるのをわざわざ宣伝しているようなものだ。こんな企業グループから金を捲き上げてもバチは当らないだろう。
 すでに配下の税務職員には税務調査に出向かせている。何も特別な調査をする必要はない。国税局が調査をしていることをこの企業グループのオーナーに知らせるだけで十分だ。

 この企業グループは少なからぬウラ金のやり取りをしている。いくつかの関連会社の経費にもぐり込ませたり、下請会社に水増しの請求書を発行させて、ウラで水増し分を密かに回収している事実もバッチリ掴(つか)んだ。ウラ金の還流システムだ。ウラ金が最終的に行きつく先の見当も概ねついている。役人とか政治家などへのソデの下(ワイロ)、さもなくばオーナーの個人的遊興費と隠し財産だ。
 このようなウラ金を取り仕切っているのは副社長、オーナー社長が全幅の信頼を寄せている人物だ。これをターゲットにしてゆさぶればよい。準備は全て整った。

 徴税権力を背景にした詐欺と恐喝の絵図(えず)が出来上がった。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“あれ取りに行き これ持って あれ忘れ” -さいたま、ぴっぴ

(毎日新聞、平成24年1月14日付、仲畑流万能川柳より)

(忘れることはいいことだ。ふるい分けられた、よりすぐりの情報だけが残るから。)

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