原発とは何か?-⑯
- 2011.11.08
- 山根治blog
最近の報道によれば、東京電力の救済スキーム(「原発とは何か?-号外(パンドラの箱)」参照)を作成したのは東京電力のメインバンクである三井住友銀行であるという。緊急融資2兆円のうちで最も金額の多い6,000億円を用立てた銀行だ。
この救済スキームをベースにして原子力損害賠償支援機構法(以下、支援機構法という)が成立したものの、国会の附帯決議で「本法は、東京電力を救済することが目的でない」ことが確認されたことによって、東京電力に対してスムーズな支援ができないことになった。支援機構法によったとしても無条件に国費を投入することができないのである。前回述べたところである。
ところが、東京電力の救済スキームに待ったをかけているのは国会の附帯決議だけではない。東京電力の原発事故に関しては、そもそも支援機構法の適用ができないのではないかということだ。
たしかに、この支援機構法の成立は平成23年8月3日ではあるが、附則の経過措置によって、過去の原発事故にも適用できるようになってはいる。
附則第3条において、
として、遡及適用ができるようになっているからだ。
しかし、支援機構法は、もともと原賠法第16条(国の措置)にもとづくものだ。当然のことながら原賠法の規定に拘束される。
原賠法第16条は、
と規定し、損害賠償額(1,200億円)を超え、かつこの法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、と明記して、原子力事業者(東京電力)の賠償債務を無条件で肩代りすることを定めてはいない。原賠法の成立過程で最も議論が交されたところである。詳細については後述する予定だ。
原賠法第16条にいう「この法律の目的」とは、原賠法第1条に定められているものだ。
+被害者の保護を図ること
+原子力事業の健全な発達に資すること
の2つである。
この2つの目的を達成するために必要があると認めるとき、政府は必要な援助(補償ではない!)を国会の議決を経た上で行う旨定めたのが原賠法第16条である。つまり、原賠法第16条にもとづいて成立した支援機構法は、原賠法第1条の2つの目的に拘束されている。
このうち、1.は問題ない。問題なのは2.の原子力事業の健全な発達に資することだ。
つまり、この目的を充足させるためには、東京電力が多額の損害賠償債務を負担し、経営的に破綻、換言すれば自力で立ち直れないような債務超過に陥っていないことが不可欠の条件となる。
何故か。
自力で立ち直れない程の債務超過に陥り、経営的に破綻していることと、原子力事業の健全な発達に資することとは相いれない、つまり、矛盾することだからだ。東京電力は平成23年3月末時点で経営的に破綻していたことがほぼ確実であることから、原賠法第16条を発動する条件の一つが欠けているのではないか。つまり、支援機構法にいくら遡及規定が盛り込まれていたとしても、東京電力に関しては支援機構法そのものの適用ができないおそれがある。このことについては、別の角度からすでに「原発とは何か?-号外(パンドラの箱)」で触れた。
原賠法の存在を知ったのは、3.11事故の後、しかも、東京電力の平成23年3月期有価証券報告書が開示された平成23年6月23日以降のことであった。監査人の監査報告書に決算を組む上で重要な法律として記載されていたからだ。
すでにたびたび述べてきたように、東京電力の平成23年3月期の有価証券報告書には虚偽記載があり、監査人の監査報告書は虚偽証明である。
私には、何故東京電力だけでなく監査人までが虚偽記載の片棒をかついだのかその背景が分らなかった。
その後、大掛かりな東京電力の救済スキームの存在とそれに付随した2兆円の不正融資の存在を知るに及んでますます分らなくなった。私の謎解きの旅が始まった。
まず私は、その鍵を握っているのが原賠法ではないかと目星を付けた。50年前の原賠法の成立事情にまで遡って検討し、かつ、今回の支援機構法についての全ての国会議事録を検証したところ、ほぼ全体の構図が見えてきた。謎が解けたのである。
その全体の構図とは何か。
東京電力と大手銀行とが、経産省、財務省などの役人達とタッグ・マッチを組んで身勝手なスキームを作り、政府を騙して閣議決定をさせ、国会の審議をケムに巻いて、怪しげな支援機構法を無理矢理成立させた構図だ。この国会の審議、茶番劇そのものであった。
この法律は、20兆円から100兆円ほどの東京電力の原子力損害債務を、国民にそっくり負担させようとしているものだ。東京電力をはじめとする利害関係集団による責任逃れの法律であると称しても過言ではない。このトンデモない構図をより明確な形で明らかにしたのは、東京電力に関する経営・財務調査委員会(下川辺和彦委員長)による委員会報告(平成23年10月3日付)である。この報告、信じられないようなオソマツなものであり、ヤラセ・メールならぬヤラセ報告であった。
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ここで一句。
(クツ屋はクツを、洋服屋は服を。)