原発とは何か?-②

 思えば、3.11の福島第一原発の大惨事が起るまでは、原発論議はタブーであった。

 原発政策は日本の国策だ。反原発、あるいは脱原発を唱えようものなら、それこそ反社会的な奇人変人扱いされ、日本社会からはじき出された。仕事をする上で差別されただけではない。要注意人物として公安警察の尾行の対象になったり、中には文字通り命まで狙われた人さえいたのである。まさに、マフィアの世界だ。

 このような状況は、自民党政権から民主党政権に移行してからも基本的に変ることはなかった。自民党ほどヒドくはないものの、民主党も原発利権のおこぼれにしっかりと与(あずか)っていたからだ。



 このような構図はかつての55年体制のときと同様だ。55年体制のもとでは、自民党と社会党が国会の表舞台では激突を演じながらも、ウラではしっかり手を結んでいた。その代償として少なからぬ金銭の授受がなされたり、その他の裏取引がなされていた節がある。ホンネとタテマエが全く違うのである。自民党はもちろんのこと、かつての社会党、今の民主党もそうだ。



 昨今、菅直人首相に対して与野党挙げて「ペテン師」だの「ウソつき」だのと口汚くののしり、大騒ぎをしているが、笑止である。とりわけ自民党の連中に至っては、自らが政権を担ってきた数十年の間、どれだけ国民を騙し、欺いてきたというのか。数々のウソをついて平然としていた小泉純一郎氏、国交省のインチキ(「粉飾された2兆円 」参照)を黙認して不必要な土木工事を推し進め国の借金を増やし続けてきた土木建設族。年金行政に至ってはインチキのかたまりであったし、それを是正するためと称して“100年安心プラン”なるものが打ち出されたが、一年そこそこでバケの皮が剥がれてしまうオソマツなインチキ政策であった。

 自民党が行ってきた極めつきのインチキ政策が原発政策だ。
 原発政策。この政策の要(かなめ)とされてきたのが次の3Eだ。いわば原発政策の大義名分である。

   1)エネルギー供給の安定性(Energy)
   2)環境適合性(Environment)
   3)経済効率性(Economy)

 1)~3)の3Eを同時に満たす基幹エネルギーとしては原子力発電しかないというのが、これまでの国の公式見解であった。この3Eこそ、日本の国策とされてきた原発政策の基本である。
 そこで、この3つの大義名分(3E)について順次検討を加えていくこととする。

 個別の検討を加える前に、全体としてまず気づくことが2つある。
 一つは、政策の前提とされてきたこの3Eを見て、果して何人の人が原発政策に思い至るのか、ということだ。石油、石炭、天然ガス、あるいは太陽光、風力といった自然エネルギーの中から、この3Eによって原子力エネルギーに辿り着ける人がどれほどいるのかということだ。3.11以前においてはもちろん、3.11以降においても、大多数の日本国民は、首を傾げて即答できないに違いない。このことは、この3Eが原発政策を進める上でわざわざ作り上げられた理屈、つまり、客観的・合理的な理由でなく、多分に恣意的・政策的な屁理屈であることを示唆する。
 二つは、3)の経済効率性はもちろんのこと、1)のエネルギー供給の安定性、2)の環境適合性は、多分に社会科学のテーマであり、自然科学のテーマではないということだ。これまでは、このようなテーマを、極めて閉鎖的な、いわゆる「原子力ムラ」の内輪だけで取り扱い、外部からのチェックをかたくなに排斥してきたのである。
 原発に反対する自然科学者とかジャーナリストとかを排斥しただけではない。政策の要である3Eの妥当性を検討すべき社会科学者については、原子力の門外漢として初めから外されていたということだ。
 この事実を端的に示しているものが、3)の経済効率性、即ち、エネルギーコストの検討だ。原発のエネルギーコストは、水力、火力等他のエネルギーに比較して圧倒的に有利であることが呪文のように唱えられてきたが、不思議なことにこれまでその計算根拠が示されてこなかった。
 最近になって、ことに3.11以降、遅ればせながら各方面からこのエネルギーコストの検討がなされ始め、これまで、電力会社・経産省が示してきたコスト計算がインチキであったことが明らかになった。このコストについては後に詳述する予定である。

 原発は巨大産業であり、軍事機密が絡むものだ。しかも、原子力は、未知かつ未解決の問題を多く抱えた最先端の科学である。国民の誰もが容易に入っていけるものではない。
 しかし、原発政策にかかるこの3Eについていえば、社会科学者でなくとも、原発に関心のある人であれば誰でも簡単に理解できるものだ。専門家でなければ分からないものではない。
 「原子力マフィア」と称される一部の利権集団(前回のBの連中)が、原発安全神話をまことしやかにデッチ上げ、それを前提として、政策の中核となる3Eをこれまたデッチ上げて、「原子力マフィア」以外の全ての人を村八分にして進めてきたのがこれまでの自民党の原発政策であり、それをそのまま引き継いだ民主党の原発政策であった。ウソの上にウソを重ねたシロモノで、詐欺師でさえのけぞってしまうほどのペテンであったということだ。40年以上にわたって、国家的詐欺行為が国策の名のもとに遂行されてきたのである。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“ロールシャッハ 口にだせないものに見え” -和歌山、破夢劣徒。

 

(毎日新聞、平成23年7月14日付、仲畑流万能川柳より)

(Et tu,Brute?  (Julius Caesar, Ⅲ.ⅰ.77))

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