400年に一度のチャンス -号外4(カルロス・ゴーンとは何者か?)

***-カルロス・ゴーンとは何者か?
(※この原稿はトヨタ自動車の分析(「100年に1度のチャンス -23」参照)と同時期に執筆されたものです。このたび公開に至った経緯などについては「400年に一度のチャンス-10」を参照)



 平成21年2月9日、トヨタ自動車に続いて、日産自動車も決算見込の修正を行ない、経常利益が大幅なマイナスになることを公表しました。『進行中の平成21年3月期の経常利益は、マイナス1,900億円となる見込である。ちなみに前期の経常利益はプラス7,600億円であった。』(平成21年2月9日、同社のプレスリリース「東証届出:業績予想及び配当予想の修正に関するお知らせ」より要約) トヨタに較べて経営内容において見劣りする日産が赤字に転落することについては、『さもありなん』といったところで、格別な驚きもありませんでした。

 10年ほど前にカルロス・ゴーンなる人物がやってきて、日産の建て直しをすると称してバッサバッサと大ナタをふるったことは知っていました。コスト・カッターの異名を持ち、世界各地で企業再建に成功してきた人物というフレコミでした。私は当時から多分に胡散臭(うさんくさ)いものを感じていましたので、日産自動車の行方を傍観者として見てはいましたが、さほどの興味を引くことはありませんでした。世間では日産自動車の救世主であるかのようにゴーン氏をもてはやしていましたが、私は醒(さ)めた眼で見ていたのです。そのために、このたびの目をむくような赤字転落見込についても、格別の思いは生じませんでした。

 確かに、平成20年3月期の経常利益が7,600億円あったものが、一転してマイナスの1,900億円と、一挙に9,500億円も減少するというのは尋常なことではありません。これだけでも驚くのに十分値することでしょうが、私が目をむいたのはこの大幅な赤字転落の事実ではありません。
 記者会見の席上で発した、次のようなカルロス・ゴーン氏の言い訳めいた、責任免れとしか言いようのないコメントに不快な思いを抱き、強烈な違和感を覚えたのです。

『会見でゴーン氏は「99年の危機は日産がミスを犯したが、今は自動車業界全体が共通の危機に直面している」と語り、今回の業績悪化は外部環境の急変が主因と強調した』(日本経済新聞、平成21年2月10日付)

 かつて日産を倒産の危機に陥らせたのは、当時の経営陣であった。それを奇跡的に再建したのは自分の功績である。このたびの危機は、外部環境のせいであり、日産だけの問題でもなければ、まして自分の経営のやり方に問題があった訳でもない。
 -カルロス・ゴーン氏の言葉を分かり易く言い直したとしたらこのようになるのでしょうか。

 この人物の喋っていることは果して本当なのでしょうか。ゴーン氏がたずさわったこの10年の間で、日産自動車は本当に良い会社に生まれ変ったのでしょうか。あるいはまた、ゴーン氏が口にしているこのたびの日産の経営危機の責任は、経営の最高責任者であるゴーン氏には全くないのでしょうか。私は疑問に思っています。

 たしかに、当社が開発したEDIUNET(エデュネット)を見てみますと、日産自動車の信用格付はAA、財務ランクはAとなっており、最高レベルではないまでも一応は優良な会社と評価されています(※注:この原稿が執筆された時点での評価)。そのような会社が、原因のいかんを問わず一瞬にして経営危機に陥るとは一体どういうことでしょうか。私だけでなく、誰しも疑問に思うに違いありません。
 ちなみに、EDIUNETはあくまでも会社が公表している決算書をベースに作成されたもので、会社の一面の事実を示すものではあっても、必ずしも会社経営の真実を示すものではありません。決算書そのものが制度会計という制約のもとで作成されているからです。場合によったらその制約を外して経営実態に迫ることが必要になってくるのです。

 そこで私は念の為に、日産自動車の有価証券報告書を過去5年分、ネットから引っ張り出して目を通してみました。
 その結果判明したことは、日産の財務状況が無残としかいいようのない現状でした。
 なるほど、平成20年3月期末の純資産(資産の合計から負債の合計を差し引いたものです)は、帳簿の上では3兆8,494億円(●連結)もあることは事実ですが、制度会計のワクを外してその実態を見てみますと、純資産は蛻(もぬけ)の殻(から)どころか、大幅なマイナスになっているおそれさえあります。このことは、現実の経営の上では資金繰りに直接影響を与えているはずです。実際のところ、日産自動車はリーマン・ショックの一年以上も前からお金のやりくりに四苦八苦していたであろうことが財務諸表から読み取れます。
 つまり、現在の日産自動車は、資金繰りの点から、自主的な再建が極めて難しい状況にあると思われます。10年前に鳴り物入りで日産自動車に乗り込んできたカルロス・ゴーン氏は、一体何をしたのか、またそこから浮かび上ってくるカルロス・ゴーンなる人物とは一体何者なのか、客観的な数字によって明らかにいたします。数字が語る、カルロス・ゴーンの実像や如何(いかん)といったところです。

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 ここで一句。

“サラ金を 手先で稼ぐ メガバンク” -神戸、カメレオン。

(毎日新聞、平成21年2月8日号より)

(手先に使っているだけでなく、本体もサラ金をしのぐワルだったりして。)

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