税務署なんか恐くない!-9

***9.税務調査の立会い-不正認定

 税務調査において不当な事実認定が横行している。事実に反することを事実であるかの如く繕って、偽りの認定をするのである。前回述べたところである。

 税務に関する事実認定の中でもとりわけ重要なものは、脱税に直結する不正認定だ。ところが、この不正認定が驚くほどズサンである。いとも気軽になされているのが現在の日本における税務調査の実態だ。



 では、不正認定とは何か。

 法人税法は、「偽りその他不正の行為により…法人税を免れ、…又は法人税の還付を受けた」ことを逋脱(ほだつ。脱税のこと)とし、逋脱を行った法人の代表者等に対して、「5年以下の懲役に処す」(法人税法第159条第1項)と規定する。所得税法(所得税法第238条第1項)、相続税法(相続税法第68条第1項)も同様の規定をしている。いわゆる脱税犯罪の規定である。

 つまり、脱税犯罪は、
+偽りその他不正の行為
+税を免れること(又は税の還付を受けること)
の2つの要件(構成要件)によって成立する犯罪である。
 不正認定とは、この2つの要件を税務当局が認定することに他ならない。

 脱税を摘発するのは、通常の税務職員ではない。摘発の任にあたるのは国税犯則取締法(国犯法-コッパン法と呼ばれている)に規定されている収税官吏(ふつう国税査察官と呼ばれている)であり、各国税局長によって税務職員の中から任命される。(冤罪を創る人々「藤原孝行 国税査察官証票」)

 国犯法は刑事訴訟法の特別法だ。明治憲法下に成立した、カビが生えたようなこの法律は、脱税犯を調査し告発する権限(犯則調査権)を国税査察官に与えているが、違憲の疑いさえ指摘されている(※注)シロモノである。

 国犯法の領域(強制調査)である不正認定と似て非なるものに、各種税法に規定されている税務調査(任意調査)における重加認定がある。
 重加認定とは、重加算税賦課の認定のことで、国税通則法に規定されているものだ(同法第68条)。「事実の仮装・隠ぺい」があったときに、加算税に代えて重加算税を課すとする規定である。
 不正認定は刑事処分であるのに対して、重加認定は行政処分である。両者は似てはいるものの全く異なったものである。「偽りその他不正の行為」(不正行為)は、「事実の仮装・隠ぺい」よりも幅の広い概念であるとされ、「事実の仮装・隠ぺい」は「偽りその他不正の行為」に含まれる。下図に示す通りである。
<%image(20101228-zeikin1.png|370|168|仮装隠ぺいと偽りその他不正の行為)%>

 ところが困ったことは、両者ともに具体性を欠く、抽象的な規定であることだ。とりわけ行政処分の際に問題となる「仮装・隠ぺい」の内容が明確にされていないことから、勝手気ままな処分が日常的に行われている現実がある。
 たしかに、「仮装・隠ぺい」については、もっともらしい通達(「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)-国税庁」、「申告所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)-国税庁」)が出されてはいる。しかし、これらの通達では必ずしも仮装・隠ぺいの概念が明確にされているとはいえず、税務当局の裁量の余地が多分に残されている。
 更に問題なのは、国税当局は「不正行為」と「仮装・隠ぺい」とを同一視しているのではないかということだ。「仮装・隠ぺい」の事実がないものにまで重加算税が課せられているケースが多く見受けられるからである。

(この項つづく)

***(注)

”戦後、一部改正を経ているとはいえ、実質的には明治憲法下の法律構造が維持されている。そのため、日本国憲法の意図する人権保障手続にてらしてみるとき、規定の不備や疑問のもたれる規定が少なくない。…

 つまり、国犯法の規定自体が、憲法の意図する人権保障手続を十分に配慮するものとはなっていない。“

 

(北野弘久著、税法学原論-第6版、P.513)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“悪役としても龍馬は描けそう” -神奈川、荒川淳

 

(毎日新聞、平成22年12月9日付、仲畑流万能川柳より)

(もともと龍馬は武器商人。)

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