『疑惑のダム事業4,600億円』-八ッ場ダムの費用対効果(B/C)について -4
- 2009.12.01
- 山根治blog
***Ⅵ.(追記)カスリーン台風について
(1)八ッ場ダムの建設のそもそものきっかけは、昭和22年のカスリーン台風によって関東一円が甚大な被害をこうむったことであった。カスリーン台風クラスによる被害をできるだけ食い止めることがダム建設の大義名分とされた。(*11 『八ッ場ダム:事業の経緯』国土交通省八ッ場ダム工事事務所)
平成20年再評価においても、事業の目的・必要性欄のトップに洪水調節(利根川流域の洪水被害軽減)が掲げられており、“昭和22年9月のカスリーン台風では、利根川の本支川で堤防が各所で破堤し、氾濫流が東京都葛飾区等都心部まで達し、死者1,100人という甚大な被害が発生。”したことが特記されている。
(2)しかし、このカスリーン台風が八ッ場ダム建設の大義名分とされたことについては、このところ雲行きが怪しくなっている。国交省自らが、
ことを明らかにしたからだ。
まず、国会の予算委員会(平成17年2月25日。*12)において、日本共産党の塩川鉄也議員の質問に対して、政府参考人として答弁した清治真人国交省河川局長が、
と、驚くべき発言をしている。当事者らしからぬアッケラカンとしたものだ。
塩川議員は、この発言を受けて、
と、補足・敷衍している。
次に、石関貴史代議士(民主党)が平成20年5月27日に提出した質問主意書(*13)に対して、福田康夫総理が同年6月6日に議会に対して出した答弁書においても、事実上、
旨の回答がなされている。
更に、治水効果がゼロであることは、B/Cの計算プロセス(様式3)でも明らかにされている。(様式3)のうち、昭和22年9月カスリーン台風による大洪水の降雨パターンによるシミュレーションを集計し、実際の被害額を示したのが(表5)である。
(表5)によって判明することは、1/3から1/10までの流量規模では、事業を実施しない場合と実施した場合との被害額の開差がゼロであり、更に一ランク上の流量規模である1/30でさえ、その開差はわずか3,800万円でしかないことだ。
カスリーン台風の実際の被害額は3,801億円(平成20年換算。表2)であり、この値は、1/5の959億円と1/10の1兆8,783億円の中間に位置している。カスリーン台風の被害規模をはるかに超える1/10の規模でさえ開差がゼロ(治水効果が全くないこと)であることは、八ッ場ダムをつくってもつくらなくても、治水の上では全く関係がないことを意味する。
以上のことは、最近になって国交省が明らかにしたことではあるが、真実は、八ッ場ダムが計画された57年前、1952年の当初から、国交省(当時は建設省)は治水効果がないことを認識し把握していたと思われるデータが存在する。
それは、カスリーン台風の降雨パターン(地域分布・時間分布)(表6)だ。(表6)によれば、八ッ場ダム予定地より上流の吾妻川流域にはさほどの雨量が記録されておらず、豪雨が集中したのは専らダム予定地よりも下流であることが示されている。予定地にダムをつくったとしても全く意味がないということだ。
カスリーン台風の降雨状況の詳細は、ダム計画の作成にあたった当時の建設省は当然のことながら知悉していたはずである。仮にダムをつくったとしても、カスリーン台風の再来には全く治水効果がないことを十分に知った上で敢えてダム建設を計画し、着工したということだ。悪質である。
初めにダム建設ありき、といった図式であり、大義名分として偽りの理由を加えただけのものではないか。
***資料: (表5)カスリーン台風による大洪水の降雨パターン別シミュレーション
****A.事業を実施しない場合 (②【S22.09.13洪水: カスリーン台風】) 単位:百万円
^^t
^cx^
^cx^1/3
^cx^1/5
^cx^1/10
^cx^1/30
^cx^1/50
^cx^1/100
^cx^1/200
^^
^A
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^1,366,362
^rr^1,561,518
^rr^1,776,095
^rr^2,105,826
^^
^B
^rr^0
^rr^0
^rr^1,239,918
^rr^2,064,370
^rr^2,392,084
^rr^2,776,750
^rr^3,518,042
^^
^C
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^721,204
^rr^1,028,828
^^
^D-1
^rr^0
^rr^0
^rr^226,134
^rr^404,159
^rr^476,973
^rr^546,622
^rr^686,888
^^
^D-2
^rr^0
^rr^144
^rr^2,688
^rr^10,616
^rr^11,645
^rr^23,065
^rr^63,717
^^
^E
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^6,102,027
^rr^8,458,239
^rr^22,976,091
^rr^33,443,466
^^
^F1
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^1,824,920
^^
^F2
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^2,100,137
^rr^2,585,621
^rr^3,092,733
^rr^3,887,497
^^
^F3
^rr^0
^rr^95,743
^rr^276,513
^rr^505,644
^rr^594,453
^rr^723,051
^rr^947,138
^^
^G
^rr^0
^rr^2
^rr^133,058
^rr^228,515
^rr^288,170
^rr^394,432
^rr^593,638
^^
^H
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^194,185
^rr^265,081
^rr^335,898
^rr^430,607
^^
^I
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^78,046
^rr^107,026
^rr^128,629
^rr^162,634
^^
^cc^合計
^rr^0
^rr^95,889
^rr^1,878,311
^rr^13,054,061
^rr^16,740,810
^rr^33,494,570
^rr^48,693,201
^^/
****B.事業を実施した場合 (②【S22.09.13洪水: カスリーン台風】) 単位:百万円
^^t
^cx^
^cx^1/3
^cx^1/5
^cx^1/10
^cx^1/30
^cx^1/50
^cx^1/100
^cx^1/200
^^
^A
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^1,366,362
^rr^1,561,518
^rr^1,776,095
^rr^2,104,107
^^
^B
^rr^0
^rr^0
^rr^1,239,918
^rr^2,064,370
^rr^2,388,637
^rr^2,775,801
^rr^3,499,700
^^
^C
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^721,204
^rr^1,021,079
^^
^D-1
^rr^0
^rr^0
^rr^226,134
^rr^404,158
^rr^476,541
^rr^546,393
^rr^685,142
^^
^D-2
^rr^0
^rr^144
^rr^2,688
^rr^10,616
^rr^11,645
^rr^23,065
^rr^63,717
^^
^E
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^6,102,027
^rr^8,458,239
^rr^22,976,091
^rr^33,443,466
^^
^F1
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^1,806,521
^^
^F2
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^2,100,137
^rr^2,570,768
^rr^3,091,834
^rr^3,851,355
^^
^F3
^rr^0
^rr^95,743
^rr^276,513
^rr^505,607
^rr^594,306
^rr^717,677
^rr^941,175
^^
^G
^rr^0
^rr^2
^rr^133,058
^rr^228,515
^rr^287,892
^rr^390,789
^rr^592,907
^^
^H
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^194,185
^rr^265,081
^rr^335,898
^rr^430,607
^^
^I
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^78,046
^rr^107,026
^rr^128,629
^rr^162,634
^^
^cc^合計
^rr^0
^rr^95,889
^rr^1,878,311
^rr^13,054,023
^rr^16,721,653
^rr^33,483,476
^rr^48,602,410
^^/
****A.とB.の開差
^^t
^cx^
^cx^1/3
^cx^1/5
^cx^1/10
^cx^1/30
^cx^1/50
^cx^1/100
^cx^1/200
^^
^cc^開差
^rr^0
^rr^0
^rr^0
^rr^38
^rr^19,157
^rr^11,094
^rr^90,791
^^/
※『平成20年度八ッ場ダム建設事業再評価-4回目:費用便益分析に関するバックデータ』国土交通省の様式-3より作成
***資料: (表6)カスリーン台風の降雨パターン(地域分布・時間分布)
<%image(20091201-image004.jpg|718|340|20091201-image004.jpg)%>
※『平成20年度八ッ場ダム建設事業再評価-4回目:事業評価監視委員会公開資料』国土交通省4ページより
<%image(20091201-image006.jpg|718|489|20091201-image006.jpg)%>
(注)カスリーン台風の降雨パターンは、S22.9.13の図。
※『平成20年度八ッ場ダム建設事業再評価-4回目:事業評価監視委員会公開資料』国土交通省24ページより
***<出典>
*11 『八ッ場ダム:事業の経緯』国土交通省八ッ場ダム工事事務所
http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/keii/keii.htm
*12 『第162回国会 予算委員会第八分科会 第1号(平成17年2月25日(金曜日))』衆議院
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/003816220050225001.htm
*13 『第169回国会 432 八ッ場ダム問題に関する質問主意書』衆議院
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/169432.htm
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
読者の句を一首。
(シノペのディオゲネスに倣って、有識者、昼行灯で捜し出し。)
-
前の記事
『疑惑のダム事業4,600億円』-八ッ場ダムの費用対効果(B/C)について -3 2009.11.24
-
次の記事
『疑惑のダム事業4,600億円』-八ッ場ダムの費用対効果(B/C)について -号外1 2009.12.08