検証!! 『ホリエモンの錬金術』-19

 次に、オン・ザ・エッヂの上場直前期(第4期)の期末(平成11年9月30日)における資本金と資本剰余金について、会計上の問題点を考えてみます。

 つまり、

-資本金   340,000千円

-資本剰余金 300,000千円

と計上されているものが、果して資本金・資本剰余金と言えるのか、会計理論の上から検証することにいたします。



 資本金340,000千円のうちの40,000千円は、全く問題はないのですが、残りの300,000千円の部分と資本剰余金300,000千円の全ては、直ちに資本項目とは言えないのではないか、-これが結論です。

 何故か?

 これら合せて6億円は、平成11年9月30日に行われた第三者割当増資によるものです。一株300万円で、株式会社光通信に150株、株式会社グットウィル・コミュニケーションに50株割り当てられ、それぞれから現実に払込みがなされたものです。
 問題なのは、一株300万円という価格設定です。DCF法をベースにして当事者間で話し合いの末決定されたということになってはいますが、会計的には大きな問題をはらんでいます。その一ト月程前に、一株5万円という価格で、別の当事者間で株式の譲渡がなされている事実があるからです。払込金額6億円のうち、1株5万円に相当する1,000万円については資本項目として認識して何ら差し支えないのですが、残りの5億9,000万円に関しては直ちに資本項目として認識するのには大きな疑義があるようです。

 割り当てられた株式の取得名目で、光通信もグットウィル・コミュニケーションも一株300万円で合計6億円の払込みをしていることは事実です。しかし、その直前に一株5万円という取引が現実になされている以上、会社側としては6億円の全てを資本取引として計上することは難しいでしょう。適正な時価という大きな壁があるからです。
 では資本取引でないとしたら、一体何か。会社に入金があったことは事実ですから、資本取引以外のものとしては負債取引と収益取引しかありません。つまり、6億円のうちの大半が資本取引ではなく、負債取引もしくは収益取引ではないかということです。

 もともと、この二社は、オン・ザ・エッヂの経営に参画する意思などなく、上場の利益を獲得するのが目的であったと考えられます(「かご抜け増資」)。ここに焦点を合わせれば、6億円のうち適正な時価を超える部分(5億9,000万円前後)については、一種の預り金と考えることもできるかもしれません。
 しかし、当事者間の主観的な意思としては預り金(預託金)的な性格を帯びているとは言えるものの、現実に会社としてはその部分の返済義務はないのですから、預り金、つまり負債取引と認識することには無理があるようです。とすれば残るのは、雑収入としての収益取引ということになります。

 “かご抜け増資”の中核を担った、光通信とグットウィル・コミュニケーションが考えていたのは、次のようなところでしょうか。

『オン・ザ・エッヂという会社の実態など関係ない。一応のもっともらしい体裁を整えて、上場させてしまえばよい。証券会社を抱きこんでしまえば簡単なことだ。会計士だって金をチラつかせれば何だって言うことは聞くはずだ。
 今、6億円を出しても、上場さえすれば一年か二年のうちに10倍にも20倍にもなって返ってくる。投機としてみればリターンが大きい割にはリスクが極めて小さいものだ。』

 この二社がこのように考えていたとしても決して不思議ではありません。なにせこの二社、似たような手口で数多くの怪しげな会社を次から次へと上場させては、アブク銭を稼いでいたようですから。

 この二社の思惑としては、第三者割り当ての株価が適正であろうとなかろうと関係のないことだったのでしょう。投資ではなく、一時的な利ザヤ稼ぎを狙った投機であったと考えられるからです。
 このように見てきますと、6億円のうち、適正な時価を超える部分については、資本取引ではなく収益取引として、第4期の決算書上では損益計算書に計上されるべきではなかったか、ということになります。
 このことは、オン・ザ・エッヂの第4期の決算書に対して、2人の会計士、小林元氏と高野伊久男氏が適正意見を表明した「監査報告書」(平成12年3月6日付)の信頼性が大きく揺らぐことを意味します。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“大げさな 天地無用と いう言葉” -相生、ブー風ウー。

(毎日新聞、平成21年6月10日付、仲畑流万能川柳より)

(ゴマのハエと同様、偏差値でふるい分けられた劇画世代の人達には、天地無用は通じない?)

Loading