100年に1度のチャンス -24
- 2009.03.31
- 山根治blog
会社の純資産(自己資本)にマトを絞って、自動車3社(トヨタ・ホンダ・日産)、総合電機3社(東芝・日立・三菱電機)、家電3社(パナソニック・ソニー・シャープ)に関する分析記事がかなりのスペースを割いて新聞に掲載されました(日本経済新聞、平成21年2月24日付)。いかにももっともらしい内容に仕上ってはいますが、随所にピント外れの記述や、誤った記述が見受けられ、私が常日頃(つねひごろ)愛読している週刊ポスト、週刊現代、週刊新潮、あるいは週刊文春といった大衆誌の記事であるならば、「ご愛嬌」といったところでしょうが、クオリティ・ペーパーを自負している経済紙としてはシャレにもなりません。鼎の軽重(かなえのけいちょう)を問われると評しても過言ではないでしょう。
中でも極めつけなのは、トヨタ自動車についての次の記述です。いつものように、イスにひっくりかえっていくつかの新聞に目を通していたのですが、この件(くだり)に及んだとき、あまりのオカシサに口に含んでいたコーヒーを思わず吹き出してしまうところでした。
と、ここまでは事実の羅列ですからその通りです。間違ってはいません。ところが、これに続けて、
と、言わずもがなのことを口走ったために私がズッこける破目になったのです。
この記事を書いた人は、12兆円の自己資本について、あるいは12兆円のキャッシュがあるとでも錯覚しているのでしょうか。トヨタ自動車の貸借対照表の上では確かに12兆円弱の自己資本があることは事実ですが、これは資産と負債との単なる差額というほどのものでしかなく、キャッシュがあるかどうかとは関係がありません。もとになる資産にも負債にも制度会計の上で多くの約束ごとがあって、キャッシュ・ベースで考えるにはそれなりの修正をする必要があるのです。修正した結果は、前回記しましたように、12兆円の自己資本の90%以上が消え去り、残った1兆円にしてもキャッシュとは直接結びつくものではありません。つまり、12兆円の自己資本があったとしても、仮に3,500億円もの赤字になるならば、増資とか新たな借入をしてお金を補充しない限り、事業展開に必要な新規投資ができないだけでなく、12兆円余りの有利子負債が約定通りには返済できないのです。配当金の支払いにしても、会社法の上からは可能なのですが、資金繰りの上からはままならないということです。
3,500億円の赤字が生ずる初めての年でさえ上記の通りですので、
といった仮定そのものが、現実にはとうてい考えることのできない荒唐無稽(こうとうむけい。世の中でそんなばかな事が有るはずは無いということが分かりきっている様子-新明解国語辞典)なシロモノである、ということです。これについての詳細は、「100年に1度のチャンス-号外3」にゆずります。
さらに、トヨタ自動車を取りまく外部の状況について考えてみますと、真っ先に思い浮ぶのが監査人による「企業の継続性の前提」に関する判断です。会社が3,500億円もの巨額な赤字を計上すること自体、企業の継続性の前提に赤信号が点滅することを意味しますので、それがずっと続くようであるならば、監査人としては監査報告書に「継続性の前提に重大な疑義」がある旨を表明せざるを得ないでしょう。早ければ2年後、遅くとも5年後といったところでしょうか。とても30年もの間監査人が何も言わないで済むはずがありません。
継続性の前提(ゴーイング・コンサーン)についての重大な疑義が表明されますと、若干の猶予期間はあるものの、上場廃止になるおそれがでてきます。
また、巨額の融資をしている銀行の対応も変ってくるでしょう。約定通りの返済ができないようであれば、増資でもしてお金を調達しなければなりません。
しかし、新規投資といった前向きの目的をもった増資ではありませんので、おのずと限界があります。とすれば、銀行に頼るしか方法がありません。銀行としても借入金の返済のための融資ということであればこれまた限界があります。
このように考えてきますと、残された手段は借入金の返済条件の変更ということになります。具体的には返済期間の延長とか、元金の据え置きといったことですが、銀行側とすれば、これらの措置を認めた場合には、トヨタ自動車への融資金のランクが「正常債権」から外れてしまう可能性が出てきます。こうなれば新規融資の道がぐっと狭まるだけではありません。当然プライム・レート(最優遇金利のことです)の適用もなくなりますので、金利負担が大きくなってきます。トヨタ自動車のように12兆円もの借入金がありますと、金利が1%アップしただけで年間1,000億円以上の金利負担が増えることになり、赤字幅が更に拡大していくことになります。赤字のスパイラル(悪循環によって赤字幅が雪ダルマ式に増大することです)といったところです。
このような状態ですと、続いてもせいぜい5年がいいところでしょう。とても30年もの間続くとは考えられません。
以上が、「今期の最終赤字が今後30年続いても」という、ノーテンキな仮定の意味するところです。
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ここで一句。
(すぐにまた 裏口パスが 横行し。)
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