100年に1度のチャンス -6

 内閣府作成の国民経済計算(以下、経済計算といいます)によれば、平成18年12月末日の日本国の財務状況は次の通りです。仔細に検討すれば、相当以上に怪しげなシロモノですが、ここでは取り敢えず、この経済計算が正しいものであると仮定して話を進めます。

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^cc” colspan=”4^日本国の貸借対照表 (平成18年暦年末現在)
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^cx” colspan=”2^資産の部
^cx” colspan=”2^負債の部
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^cx^勘定科目
^cx^金額
^cx^勘定科目
^cx^金額
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^【非金融資産】
^rr^【2,501兆円】
^【負債】
^rr^【5,845兆円】
^^
^ (うち、生産資産)
^rr^(1,272兆円)
^ (うち、株式)
^rr^( 931兆円)
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^   a. 在庫
^rr^89兆円
^cx^負債合計
^cx^5,845兆円
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^   b. 有形固定資産
^rr^1,160兆円
^cc” colspan=”2″ rowspan=”2^
^^
^   c. 無形固定資産
^rr^23兆円
^^
^ (うち、有形非生産資産)
^rr^(1,229兆円)
^cx” colspan=”2^正味資産(国富)の部
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^【金融資産】
^rr^【6,060兆円】
^【正味資産】
^rr^【2,716兆円】
^^
^ (うち、株式)
^rr^( 724兆円)
^cx^正味資産合計
^cx^2,716兆円
^^
^cx^資産合計
^cx^8,561兆円
^cx^負債・正味資産合計
^cx^8,561兆円
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 この貸借対照表(以下、バランスシート、B/Sといいます)において正味資産と表現されているのは、通常の純資産(資産-負債)のことで、経済計算ではこの正味資産を国富(National Wealth)と呼んでいます。
 前回記した国会審議のやりとりの中で飛び出した、
-「日本の総資産は8,500兆円」
-「日本の純資産は2,700兆円」
といった言葉は、上記のB/Sの数字をもとにしていたのです。質疑の中のどのような文脈でこのB/Sの数字が出てきたのか覚えていませんが、これらの数字、じっと見ていますとなかなか面白いことを語ってくれます。

 中味に入る前に、普通の企業会計では使わない勘定科目がありますので、説明を加えておきます。
 まず、非金融資産。これは、実体経済、あるいは実物経済における資産のことで、金融経済における金融資産と区別されています。
 実体経済の資産(非金融資産)は、生産に直接関わる資産とそうでない資産とに分けられ、それぞれ
-生産資産
-有形非生産資産
と呼ばれています。
 取り敢えず勘定科目の説明はこの程度にとどめて、以下、資産と負債の項目を列挙いたします。

1.非金融資産
     (1) 生産資産
          a. 在庫
               (a) 製品在庫
               (b) 仕掛品在庫
               (c) 原材料在庫
               (d) 流通在庫
               (e) (控除)総資本形成に係る消費税
          b. 有形固定資産
               (a) 住宅
               (b) 住宅以外の建物
               (c) その他の構築物
               (d) 輸送用機械
               (e) その他の機械・設備
               (f) 育成資産
               (g) (控除)総資本形成に係る消費税
          c. 無形固定資産
               うちコンピュータ・ソフトウェア
               (控除)総資本形成に係る消費税
     (2) 有形非生産資産
          a. 土地
               (a) 宅地
               (b) 耕地
               (c) その他の土地(林地を含む)
          b. 地下資源
          c. 漁場
2.金融資産
     (1) 現金・預金
     (2) 貸出
     (3) 株式以外の証券
     (4) 株式・出資金
     (5) 金融派生商品
     (6) 保険・年金準備金
     (7) その他の金融資産
3.負債
     (1) 現金・預金
     (2) 借入
     (3) 株式以外の証券
     (4) 株式・出資金
     (5) 金融派生商品
     (6) 保険・年金準備金
     (7) その他の負債

 上に記した、2.の金融資産と3.の負債とのそれぞれの項目をご覧下さい。同じような言葉が並んでいますね。そうです。金融資産の(2)の「貸出」が負債の(2)の「借入」となっていたり、金融資産の(7)の「その他の金融資産」が負債の(7)の「その他の負債」となっているほかは、全く同じ言葉が使われているのです。
 これは、日本の国全体で債権、債務を考えた場合には、債権(資産)と債務(負債)の額が等しくなることの別の表現です。たとえば、個人や一般会社が持っている現金とか預金は、個人や一般会社にとっては資産なのですが、一方、現金や預金を発行している政府や銀行にとっては負債になるということです。
 つまり、6,060兆円存在する金融資産は、負債の5,845兆円にほぼ見合うものとなっており、一国全体の純資産を考える場合には相殺されて消えてしまいます。相殺されないで残った215兆円(=6,060兆円-5,845兆円)は、対外純資産(対外金融資産から対外負債を差引いたもの)、つまり、外国に対する、いわば貸出し超過分、あるいは未収入金といったところです。
 このことは、国富とされているものが、非金融資産にこの対外純資産を加えたものであることを意味しています。
 一般の企業会計では、純資産、あるいは株主資本といっても単に資産の合計額から負債の合計額を差し引いただけの抽象的なもので、具体的な資産の内容までは特定できないのですが、経済計算におけるB/Sでは、純資産(国富)の内容が
+非金融資産(金融資産を除いた資産)
+対外純資産
の2つに特定されています。なんともユニークですね。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“お家柄 良くてもがらの 悪い人” -南丹、宝月。

 

(毎日新聞、平成20年11月14日号より)

(葉巻くわえて親分気取り、マンガ渡世のなれの果て。)

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