歴史的文化財の破壊と談合疑惑 -3

 前回、落札率が99.6%であることを示し、全国市民オンブズマン連絡協議会が定めている基準によれば、「談合の疑いが極めて強い」ことを記しました。

 しかし、これはあくまで、客観的な数字として残っている6つの中から2つだけを抽出して計算した数値でしかありません。もちろん、これはこれで重要な意味を持ってはいるのですが、より談合の実態に迫っていくためには、その他の4つの数字はもちろんのこと、数字としては残っていない客観的な事実、たとえば入札資格、入札業者と落札業者の顔ぶれ、それらの過去の経歴、政治的な関連などの事実をも加味する必要があります。

 まず、
+どのような業者に入札のチャンスが与えられていたのか(入札条件)。
+実際に入札に参加したのは何社でその顔ぶれはどうか(入札者数とその顔ぶれ)。
+入札した業者がそれぞれどのように応札したのか(入札状況)。
+3.の入札状況について、事前に公表されている入札希望価格を上回っているのか、割り込んでいるのか(一応の採算ラインを超えているかどうか)。
+応札の中で予定価格を越えているものがあるか。
+落札までに何回入札が行なわれたのか(入札回数)。
+どの業者が落札したのか(落札業者の素性)。
など、ザッと考えただけでも7つほどのチェックポイントがあります。つまり、基本となる落札率をベースとしながらも、上記の7つのポイントを吟味することによって入札から落札に至るプロセスが生々しく浮び上ってくることになります。

「談合の疑いが極めて強い」

という段階から、今一歩進めて、入札業者達がどのような思惑で入札に臨み、落札することになったのか、更には、落札額の中からどの位が政治献金(ワイロということです)に回す余地があるのかまで、かなり正確に推測できるでしょう。

 そこで、件(くだん)の松江市歴史資料館の建築主体工事について、更に突っ込んで見てみましょう。(入札公告:松江市歴史資料館(仮称)建築主体工事

(1) この入札でまず目につくのは、入札の資格が限定されていることです。とくに、一社だけでは駄目でジョイント(特別共同企業体)を組むことが必要とされているのですが、この条件づけ自体、形を変えた一種の談合と言われても仕方ないでしょう。

(2) 入札に参加したのが2つのグループだけであるのもひっかかります。平成20年6月30日の入札公告を見ますと、建築仕様などの詳細(設計図書)は、市が有料で販売することになっていましたので、念の為に何社に販売したのか松江市に問い合わせたところ、

「機密事項」

であるとの理由で、教えてもらえませんでした(平成20年9月2日、松江市財政部契約検査課、松浦氏回答)。
 設計図書の販売部数が何故“機密事項”であるのか、理解に苦しむところですし、このようなことまで隠そうとすればかえってあらぬ疑いが深まってしまいます。

(3) とりわけ、落札価格と2つのグループの入札状況は異常なものでした。(入札結果詳細:松江市歴史資料館(仮称)建築主体工事
^^t
^cx” colspan=”2^項目
^cx^金額
^cx^備考
^^
^ll” colspan=”2^1. 入札希望価格
^1,180,000,000円
^事前に公表
^^
^ll” colspan=”2^2. 落札予定価格
^1,264,744,000円
^秘密、事後に公表
^^
^ll” rowspan=”2^3. 入札状況
^Aグループ:落札業者
^1,260,000,000円
^落札価格
^^
^Bグループ:その他
^1,300,000,000円
^ 
^^/
 1.の入札希望価格は、入札公告で示されているものですが、2.の落札予定価格は、もちろん秘密のもので入札後に明らかにされています。
 この2つの価格を念頭において、落札業者であるAグループと落札できなかったBグループの入札価格をチェックしてみますと、いくつかの興味深い事実が浮かび上がります。

 まず真っ先に目につくのがAグループの落札価格がマル秘とされている落札予定価格ギリギリの線にあることです。この比率が落札率で、99.6%になることは既に述べたところです。
 次に目につくことは、落札価格が落札希望価格1,180,000,000円より80,000,000円も多い1,260,000,000円であることです。この落札希望価格は、一般に採算ラインの目安とも言えますので、それを80,000,000円だけオーバーしているのです。最近は公共工事が極端に減少しており、採算割れで落札する案件も珍しくないことを考えに入れますと、不自然な感が否めません。
 更に、落札できなかったBグループの入札価格が、1,300,000,000円であることも相当以上に不自然です。ナント、落札希望価格を1億2千万円もオーバーしているだけでなく、落札予定価格をも3千5百万円以上もオーバーしています。作為的なことが見え隠れするこの13億円という入札価格は、本気で落札しようという気のないことを示しているのではないかと疑われても仕方ありません。

(4)入札状況が(3)のように異常であったのに加え、わずか1回の入札で決まった事実は、入札そのものが出来レースである疑いを濃くするものです。

(5) そして、極めつけは、この2つの企業体の素性です。保守王国、土建王国といわれる島根県にあって、これまで公共工事の利権を享受してきた企業群であり、国政選挙だけでなく、県議会あるいは市町村議会の選挙の際にも、あるいは県知事市長などの首長選挙の際にも、保守陣営の選挙別働隊として活発に動いていたのは衆知の事実です。ちなみに現在の松江市長は、このような保守陣営が担(かつ)ぎ出した役人あがり、つまり”過去官僚“(高橋洋一氏の造語です)であることも事実です。しかも来年4月に予定されている松江市長選挙には現市長が出馬の意向を示しているのです。

 以上、落札率が99.6%であることをベースにして、その他の事実を合わせ考えますと、不正談合の疑いはより一層強くなってきます。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“赤塚さん これでいいのだ ありがとう” -行田、ひろちゃん。

(毎日新聞、平成20年9月4日号より)

(今から45年ほど前、大学で寮生活をしていたときのことです。「おそ松くん」が一世を風靡(ふうび)しており、寮の仲間とうどんを食べに行っては、備え付けの少年サンデーを大笑いしながら読んだことを懐かしく想い出します。)

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