粉飾された2兆円 -19

 なにが何でも大橋川改修事業を押し通そうとしている国交省と、それに便乗して街づくりをしようとしている地元自治体。たとえて言えば、こんなところでしょうか。



 親のスネかじりに明け暮れていた放蕩息子、おこぼれに与(あずか)ろうとする取り巻き連中を引き連れて、不相応な外車を乗り回し、クルーザーを操ってはいっぱしのセレブ気取りの毎日。

 ところがこのところ親父のサイフが急に怪しくなってきた。経営する会社の業績が悪化し、資金のやりくりに明け暮れるようになった。息子は我関せずとばかりに浪費生活をやめようとしない。相も変らず、酒だ女だ車だと浮かれている。

 加えて、居候をしている親父の家を壊して、新しく作り直そうともくろみ、取り巻きの一人である建築士に設計図まで作らせてしまった。このところ仕事量が急減している建設会社が、このドラ息子をおだてあげてその気にさせたのである。あれもこれもと多くの注文をつけたために、建築見積額はどんどん膨れ上がり、3億円にまで達することになった。

 倒産寸前の会社を切り盛りしている親父は、このところボケの症状が顕著になっている。一家の財政状況を考えたら無理なことが明らかである家の新築に同意しそうな雰囲気だ。

 ここで、
-放蕩息子は、国交省であり、
-ボケ親父は、国家であり、
-取り巻きは、地元自治体であり、
-建築会社は、土建業者である、
とでもすれば、まさに大橋川改修事業をめぐるドタバタ劇ということになるでしょう。この背後に、あるいは、決して表には出ない怪しげな黒幕がいて建築会社(土建業者)からピンハネしているかもしれません。
 取り巻き連中の中には、おきまりの“たいこ持ち”(幇間。他人が喜ぶようなことや心にもないお世辞を言って自分の立場を有利にしつつ世の中をうまく渡る者、-新明解国語辞典)もいて、一連のドタバタ劇を盛り上げる役割を果しています。たいこ持ちの中心にいるのは『大橋川周辺まちづくり検討委員会』という、もっともらしい名称のもとにかき集められた連中です。10人のメンバーはイエスマンの寄せ集めであり、地域住民から事業の実態を覆い隠すカムフラージュの役割までも果しているのです。
 30年前に決定された270億円という事業費でさえ過大である(私の推計では43億円が限度、-“粉飾された2兆円-15”)のに、あろうことか、ふくれにふくれて10倍を超える3,000億円というトンデモない金額がささやかれている始末です。(注、最近になってようやく、約700億円という金額が口頭で示されました。)

 地域にとって真に必要なものであれば、1,000億円でも3,000億円でも公費を投入すべきです。たとえば、松江市の喫緊(きっきん。急を要する大事なこと。)の課題の一つは島根原発の地震対策です。日本の中で県庁所在地に原発があるのは松江市だけで、地元としたら迷惑この上ないシロモノですが、すでにできて稼動しているものですし、また、代替エネルギーといっても急には用意できないのですから、いやでもじっと我慢するしかないかもしれません。
 それだけに原発の安全性については万全の対策を講じてもらいたい、これが地元としての当然とも言える切実な要望でもあります。

 一年前の新潟の大地震の際に、柏崎泊原発のおそまつな耐震構造が露呈し、最近になって東京電力は従来の5倍の強度に補強すると発表しました。この問題はひとり柏崎泊原発だけの問題ではありません。島根原発も柏崎泊原発と同様の大きな活断層が原発の至近距離に存在することが一部の専門家によって明らかにされています。
 原発は電力会社にまかせておけばいいものではありません。かつてのスリーマイル島の原発とかチェルノブイリ原発のようにひとたび事故が起ると地域全体が一瞬にして壊滅するおそれのあるものです。それどころか、狭い日本ですので、松江市はもとより日本全体が怪しくなってきます。一刻も早く綿密な調査をして十分な耐震補強をすべきであり、そのためのお金なら、いくら費やしてもいいはずです。しかし、詳しい実態調査はなおざりにされ、耐震補強工事をする気配さえありません。中国電力も、国も県も市もいっこうに腰を上げようとはしないのです。
 このように、緊急性があり、かつ地域、更には日本国の存立に不可欠な公費の投入は、これまで問題にしてきた費用対効果の検討を超えるものであり、直ちに執行すべきものでしょう。
 大義名分の立ちそうもない国の事業に便乗して、不要不急の街づくり計画に目の色を変えたり、更に悪ノリして路面電車など思いついたりする前に、地元の自治体としてやるべきことがこの島根原発の耐震補強以外にもあるはずです。地域住民の本当の気持ちやニーズをくみとることのできない、霞が関の論理に支配された役人あがりの首長、つまり“過去官僚”はいいかげんに表舞台から消えて欲しいものですね。歴史と文化の街である松江市にとっては、百害あって一利なしといった存在であり、地域社会にとって迷惑千万だからです。

(この項おわり)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“バカタレと いう名称の ジャンルでき” -茅ヶ崎、河野健二。

 

(毎日新聞、平成20年6月8日号より)

(おバカタレント。本人の思い込みとは裏腹に、“過去官僚”の大半はこのジャンル? これぞバカタレならぬ“馬鹿ったれ”。)

***<今の松江> (平成20年6月15日撮影)
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^cx^竹林の小径(城山)
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