冤罪の構図 -14
- 2007.09.04
- 山根治blog
嘘の自白を何故するのか、新井将敬氏のケースに即して改めて考えることにいたします。
濱平裕行氏(元.日興証券常務)と平岩弓夫氏(元.日興証券副社長)が、検察の偽りのストーリーに沿うような嘘の自白をするに至ったのは、検察による利益誘導と脅しがあったからでした。
まず利益誘導については、新井将敬氏の件だけ検察の言い分を認めれば、日興証券トップにまでは波及させないといった裏取引があったものと考えられています。当事者である浜平、平岩両氏についても、身柄の早期保釈と訴追した場合でも実刑までは求めない(つまり執行猶予ということです)といった取引があったものと推認されます。暗闇の司法取引といったところです。
次に、検察の脅しについては、検察のストーリー(利益要求罪)を認めなければ、罰則の重い背任罪で立件すると迫ったというのです。新井将敬氏と平岩弓夫氏との会話記録はその間の事情を生々しく伝えています。
(新井) それは申し訳なかったですよ。
(平石) ええ、だからそういうこともありまして、かなり慎重にやらないと挙げ足とっていろんな攻め方をしてくるもんですから、要するに要求がないのに何かそういう便宜を図れば背任だっていって脅してくるわけだし。
(新井将敬と日興証券との会話記録、平成10年1月15日の会話記録より)
新井氏が利益の要求をしないのに勝手に便宜を図れば背任だ、などと申し向けること自体インチキであり間違っています。顧客に対する日常的な便宜供与は通常の営業活動の一環であって、それが背任になるならば、営業自体ができなくなってしまいます。これは経済界における常識以前の問題です。ただ、このように冷静に考えればナンセンスなことでも、国家権力を背にした検事が密室の中で迫ってきますと、まことしやかに響くのでしょうね。
検察が行った脅しの最大のものは、兵糧攻めであったと思われます。つまり、検察の言う通りにしないと会社が窮地に陥ることになる、そうなると会社の反感を買い、会社から支援が得られなくなると脅したのではないか。更には、一歩進んで、それでも仮に会社側が便宜を図ろうとした場合には、会社に損害を与えた犯罪者に会社の金を支出することは違法であり、金銭的な支援自体が罪の上塗りをすることになる、このことを社長にひとこと言うだけで会社の支援はストップするはずだ、とでも申し向けて脅しあげたことが容易に推認されます。そのプロセスはともかくとして、会社側からは両人に対して裁判費用だけでなく、その後の身分保障が与えられたようです。
私達が刑事事件に巻き込まれた場合、裁判費用をどうするのか、生活費をどうして工面していくのかは極めて大きな問題です。私の場合について言えば、逮捕された時に一定の金銭的な貯えがありましたので、かろうじて切り抜けることができました。刑事裁判を戦い、無罪を勝ち取るためには、現在の日本においては少なからぬお金が必要です、これは冤罪を戦い抜いた者としての実感です。身に覚えのない冤罪の濡衣(ぬれぎぬ)を晴らすのに多額のお金がいるというのは、なんとも釈然としないのですが、残念ながらこれが日本の刑事裁判の現実です。このことについては、「冤罪を創る人々」(第六章)10年間の財政の推移、で詳述しました。
生活の糧(かて)を会社に依存しているサラリーマンは会社の意向に左右されますので、会社が金銭的な保障をしてくれるかくれないかは大変なことなのです。
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ここで一句。
(医師はもともと職人。医師、弁護士、会計士など、職人以上のものではない。ともに、“先生”と呼ばれて金廻りがよくなると増上慢(ぞうじょうまん)になり堕落。)