Uチャート分析 -4
- 2006.11.28
- 山根治blog
彫刻家のオーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)は、「いらないものをすべて削る」という言葉を残しています。また、20世紀のモダニズム建築を代表するドイツの建築家ルートヴィッヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe)は、「無駄な部分を削ぎ落としたデザインが、より豊かなデザインである(”Less is more”)」とする信条のもとに、自らの作品を世に送り出しました。
2人の優れた職人、あるいは匠(私は職人という言葉も好きですが、熟練した職人という意味を持っている匠(たくみ)という言葉はもっと好きな言葉です。ドイツでいうマイスター(Meister)です。)の言葉の背後には、匠としての誇りに満ちた美意識が存在しているはずです。
私達が考え出したUチャート分析にも同じことが当てはまります。決算書をギリギリまでに簡略化した上で企業の実態に迫っていく方法の背景には、美意識ならぬ、会計における一つの基本的な考え方があるのです。それは、企業会計の分野から企業の実態の把握を試みるスタートであり、ゴールとも言えるものです。
企業会計のスタートであり、ゴールである、つまり、会計のアルファ(初め)であり、オメガ(終り)である基本的な考え方とは何か。それは、キャッシャ(現金)に主軸を置くもので、キャッシュの入り(IN)と出(で、OUT)を明確につかみとるということです。この一連の流れ(チャート)は、企業会計のスタートであると同時に、その結果としての全ての決算書(貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書)が、このチャートによって読み取ることができるのです。
現代の貨幣経済のもとでは、企業活動の全てはお金(Cash)に関連しています。しかも、数字の中でもお金に関する数字は、飛び抜けて信用性の高いものですので、お金の足跡を辿っていけば、企業がどんな活動をし、どんな姿になっているのか、分かってきます。お金には下手な細工ができないのです。
そこで、企業の立場からお金を見てみますと、
+お金が企業に入って(IN)、
+出ていく(OUT)、
+出ていかなかったものが残る(IN-OUT=残、BALANCE)、
という図式が基本であることが分かります。
つまり、
入(IN)→出(OUT)→残(BALANCE)
ということです。
この『お金が入って、出ていく、出ていかなかったものが残である』というシンプルな図式(チャート、Chart)こそ、企業会計の要(かなめ)であることに気がついたのが3年程前のことでした。何を馬鹿なことを言っているんだ、と一笑に付されそうですが、これこそ企業会計の基本なのです。
『IN→OUT→残』
この基本チャートが、Uチャート分析の基本であり、大前提です。数学における公理、企業会計における公準に相当するものです。公理をもとにして数学の数多くの定理が考え出され、公準という約束ごとをもとに企業会計原則の体系が構築されているように、わがUチャート分析は、この基本チャートからスタートいたします。
ちなみに、企業会計における公準(コンベンション、Convention。議論の前提となる約束ごとのことです。)は、次の3つです。
+貨幣価値の公準
+企業実体の公準
+継続企業の公準
1.は、貨幣価値が安定しており、一定であるとするものであり、2.は、企業は別個独立の存在で、実体を持っているとするものであり、3.は、企業は永遠に続くもの(継続企業、ゴーイング・コンサーン)であるとするものです。
これらは、企業会計あるいは財務諸表論の根幹をなすもので、疑ってはいけないものとされてきました。私自身、3年前までは何の疑いもなく受け入れていたのです。これに疑いをさしはさみ、否定いたしますと、企業会計の理論、財務諸表論の全体がガラガラと音を立てて崩れてしまうからです。
しかし、このような疑ってはいけないとされている3つの大前提=公準は、特殊なケースにおいては前提となりうるものの、一般的なケースの前提とはなりえないのではないか、このことに気がついたのが3年前のことです。認知会計(コグニッティブ・アカウンティング)の考えが突如として思い浮かび、その理論付けを模索していたときに気がついたのです。
たしかに、貨幣価値など一定ではなく常に変動していますし、企業の実体といってもはじめから前提とすべきものではなく、その存在自体追求して解明すべき目的ですし、継続企業(ゴーイング・コンサーン)の前提に至っては、企業の経営者であるならば身にしみて分かるように、前提ではなく企業経営の目標とすべき、まさに夢のようなことです。
『IN→OUT→残』
という、Uチャート分析の基本チャートは、企業会計における3つの公準(約束ごと)に変わるべきものであると言えるでしょう。
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ここで一句。
(ヒマなのか、忙しいのか。)
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