凛にして毅なる碩学、北野弘久先生 -1

北野弘久先生から分厚い一冊の本が送られてきました。先生の近著、「税法問題事例研究」(勁草書房)でした。

半世紀に及ぶ先生の学究生活は、単に大学の中にとどまるものではなく、広く一般社会との関わりの中でも実践されました。先生のお言葉によれば、積極的に“法実践活動に参加”されたのです。

この本には先生の法実践活動の一端が集成されており、実際に法廷に提出された鑑定書が多く収録されています。
光栄なことに、私の刑事裁判における先生の鑑定書も2章17ページにわたって収録されました。
控訴審(高裁)と上告審(最高裁)のために書いて下さった2通の鑑定意見書です。
第一審で有罪とされた別件(本件は無罪でした)に関するもので、

「本件(山根注、有罪とされた別件のことです)は、税法および税法学への無知から生じた不幸な事件である。本件には法人税法159条違反として刑事責任を問われねばならない事実はまったく存在しない。被告人(山根注、私のことです)を有罪とすることは誰の目から見ても疑いもなく冤罪である。検察官および原審裁判官の無知がきびしく問われねばならない。原判決は破棄されねばならない。そうでなければ、著しく正義に反する。」(同書、P.544~P.545)

と断じて下さったものです。

結果的には、先生の心からのご尽力にも拘らず一審有罪の判決がくつがえることなく確定しましたが、私としては、日本の税法学の第一人者と目されている北野弘久博士に冤罪であると認定していただき、その上に、このような学術書にまで多くのページを割いて収録していただいたことで満足感以上のものを感じています。
尚、私の事案は、税法学の基本的教科書とされている先生の「税法学原論」(第五版)の中でも引用していただいています。(同書、P.510~P.511)
この「税法学原論」は1984年に初版が刊行されて以来、私の仕事の上でのバイブル的な存在であっただけに、2003年に刊行された第五版において私の事例を追加して引用していただいたことは感激であり、誠に光栄なことでした。

私は、30年前に会計事務所を開設して以来一貫して納税者の立場に立ち、税務当局に対して厳しく対峙してきました。
その間、私を精神的に支えたのが、北野税法学であり、北野先生の“質問検査権の法理”でした。これは、「税法学原論」において、第22章税務調査権として集大成されているところです。
税務当局が傲岸不遜な態度を示し、理に合わない不当なことを押し付けようとするたびに、先生の「質問検査権の法理」を繰り返し熟読したことをまるで昨日のことのように想い出します。
まさに私の税理士人生(会計士人生といってもいいでしょう)は、北野弘久博士という碩学の凛然かつ毅然とした姿勢に導かれたものでした。

3年間の執行猶予中は、税理士と会計士の資格が停止されていますが、既に2年が経過しました。1年後には資格が復活しますので、気持ちを新たにして北野先生の末端に連なる弟子の一人として納税者の権利を守るために再び税務当局に毅然と立ち向かっていくつもりでいます。

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北野先生の著書は、税理士・公認会計士・弁護士などの専門家だけでなく、会社の経理・総務担当者にとっても心強い味方になるものです。
税金とは何か、税務調査とは何かについて理論的に分かり易く解明されている名著であり、実務の現場で必ずや役に立つものと信じます。
-北野弘久著「税法問題事例研究」(勁草書房) 2005年9月20日刊行
-北野弘久著「税法学原論 [第五版]」(青林書院) 2003年6月25日刊行
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北野先生のご紹介 (著書における紹介文より抜粋します)

◎北野 弘久(きたの ひろひさ)
1931年富山県富山市生まれ。

***[最終学歴]
早稲田大学大学院法学研究科憲法専攻終了。

***[専攻]
税財政法・憲法。

***[主要経歴]
大蔵省主税局・国税庁勤務後、1960年に学界へ。東京大学社会科学研究所講師、日本大学法学部専任講師、助教授、教授。日本大学比較法研究所長。2001年に日本大学を定年退職。現在、日本大学名誉教授・法学博士・税理士・弁護士。中国・北京大学客座教授。中国・西南政法大学名誉教授。
国会参考人15回、法廷等での鑑定証言等約400回。租税犯罪、地方税財政、租税の使途問題への助言も多数。

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師の学恩に謝して、一首。

”信濃なる千曲の川の細石(さざれし)も 君し踏みてば玉と拾はむ”

 

(万葉集巻14東歌、No.3400)
 
 

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