江戸時代の会計士 -7
- 2005.09.27
- 山根治blog
恩田木工は、妻子をはじめとする身内の結束を固めたうえで、いよいよ藩の財政改革に着手します。
木工は、自らの改革案を藩の役人達と百姓町人達に呈示して、それぞれ心から納得させていきます。藩財政の建直しという一つの目標に向かって、上下の心を一つにまとめあげていく手法は見事というほかありません。
決して自らの提案を一方的に強引に押しつけるのではなく、十分に考える時間を与えた上で、納得ずくで、木工の提案を領民達の自発的な提案という形に転換させているのです。方法論としては、妻子たちに用いた手法と同一のものです。
恩田木工は、さしずめ、オーケストラをまとめあげ、自分の思い通りの曲想を創り上げていく名指揮者といったところでしょう。
「日暮硯」が描く恩田木工の改革の骨子は、次の通りです。
まず、老中はじめ藩の役人たちに対して次のような約束をいたします。
(1)
(さて又どのように倹約するといっても、殿様が召し上がる食事はもちろんのこと、殿様関連の諸費用は決して倹約の対象にしてはいけないと考えます。10万石にふさわしい体面を保つことが必要だからです。他のことについては、なにかにつけて倹約を旨とするつもりであり、殿様関連の諸費用は従来通りといたしたいと存じますので、そのようにお考えいただきたい。)
つまり、勘略(倹約すること)といっても、殿様に関する経費には一切手をつけない、松代藩10万石の体面を保つのに必要なものは財政改革の対象外である、と明言します。
(2)
(皆様をはじめ、下役の者までも従来俸給を一部カットして支給していましたが、私が勘略奉行を勤めます間はカットをすることなく本来の給料を月々キチンと支給いたします。そのようにお考え下さい。)
つまり、今までは給料のカットをしてきたが、今後はカットをとりやめ、元通りに月々キチンと支払うことを約束します。
但し、
(3)
(その代わり、皆様の仕事ぶりに疎かなことがないように願いたい。仮に、そのようなことがあった場合には、私が許さない。断固として処罰の対象といたします。この旨皆様に申し上げますし、下役、支配下の末端まで皆様からお話になって下さい。)
つまり、給料はカットなどせずに、キチンと支給するかわりに、キチンとした仕事をして下さい、仕事がおろそかであったり、藩士として悖(もと)ることをした場合には厳罰に処すと言っています。
(4)
(右の通り、公務を大切にしてお勤めなさったうえは、お金に余裕ができるのであればどのようになさっても結構です。皆様もそれなりの息抜きとか楽しみがないようでは、ふだんの公務に精励できないでしょうから、楽しみもそれ相応にご自由になさって下さい。その他、倹約といっても急にはできないでしょうから、まず従来通りなさって下さい。)
つまり、キチンとした勤めをするならば、今までの生活をとくに切り詰めたりする必要もないし、お金が余れば楽しみごとも普通にやっても構わないというのですから、この段階では、他の家老達をはじめ役人達もむしろホッとしたのではないでしょうか。
しかし、「御奉公向き大切に相勤め候上にては」という恩田木工の言葉の真意が後日明らかになると、一同あまりのことに真っ青になってしまいます。
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
(前道路公団内田道雄副総裁。行政のトップの総理大臣が平気でゴマカシを連発するのですから、右にならえ。)
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