103 衛生夫
- 2005.06.28
- 引かれ者の小唄
****(2) 衛生夫
一、 拘置監を担当する衛生夫は二人であった。出所間近の受刑者だったのであろう。二人共、彼らがセンセイと呼ぶ担当看守の手足となってコマネズミのように立ち働いていた。
配食、空下げ、洗濯物の収集と返還、自弁品の配布、その他拘置監内の雑用全てを、看守の監督のもとに行っていた。
二、 私語は禁じられていたため、彼らと話をすることはなかった。ただ、私がときおり、「ご苦労さま」と小声をかけると、白い歯を出してニッと笑った。
一度だけ看守が持ち場を離れ、若い衛生夫と二人だけになったことがあった。
私は、小声で「出所はいつ?」と問いかけてみた。「あと半年」という答えが返ってきた。
私は、素早く紙切れに私の名前と電話番号をメモして手渡し、「出たら一度尋ねておいでよ」と話したところ、にっこりと笑い、うなずいた。
あれから8年が経とうとしている。「うえの」と名乗った若い衛生夫は、いまだ私の前に現れていない。