ホリエモンの錬金術 -14

堀江さんは、資本金という極めて重要なことがらにいくつかの細工を加えて、怪しげな会社を上場させたものの、ごまかしの経緯を韜晦(とうかい)するためでしょうか、著書の中で必死になって偽りの弁解をしています。

まず、上場前の会社の状況に粉飾(ドレッシング)を施し、いかにも急成長の優良会社であったかのように偽って、次のように述べています。

“会社設立から1年がたつと、年間1億円に達する売上規模へと急成長していた。
………
すでに内部留保は年商の半分近い、5000万~6000万円にまで達していた。“(前掲書、P.108)

この時期は、平成9年8月の増資(600万円→1000万円へ)前のことですから、内部留保は、1000万円にさえ達していません。(資料Lを参照
それを5000万~6000万円と粉飾しているのですから、「年商1億円に達する売上規模」というのもなんだか怪しくなってきます。
つまり、彼が言うように「ウエブ制作などで日銭ビジネスに邁進」した結果が、本当に年商1億円ということであるとすれば、会社の業態(従業員が1~2人)からみて、公表されている利益が少なすぎるのです。
このことは、逆に売上自体が水増しされている(例えば、売上と仕入を両建にする等)ことを示唆します。

次に、あたかも将来性のある有望な会社であったかのように、ホリエモン独自の方法で自画自賛しています。稚気丸出しといったところです。
まず、熱意をもってあたれば、創業資金などなんとでもなると述べるかたわら、有馬親娘から資金を引っ張り出したのは失敗であったと放言しています(資料Mを参照)。6年~8年前の学生くずれのホリエモンに、一体誰が資金を用意してくれるというのでしょうか。
更に、ベンチャーキャピタル(VC)についても次のように切って捨てています。

“でも今考えれば、VCを入れる必要はなかったかもしれない。当時の私は、
「カネが入ってくるんだから、別に悪いことじゃないよな」
とあまり計算せずに、そう考えた。
そして事業会社を含めて2社からの出資を受けた。第三者割り当て増資の形で、総額6億程度だったと思う。
………
今考えても、何のメリットがあったのかよく分からない。“(前掲書、P.127~P.128)

これは、株式会社光通信と株式会社グッドウィルコーポレーションから導入した6億円のことを言っているものです。
堀江さんは、VCを使う必要がなかったのは、ファイナンス部門を自社の中に用意していたからである、と言っています。
このファイナンス部門とは、“元顧問税理士、現ライブドア取締役最高財務責任者(CFO)の宮内亮治が率いているチーム”のことだそうです。
上場前、赤字体質に陥り、資金繰りもままならないような会社にとって、一人の若い顧問税理士が一体何の役に立つというのでしょうか。通常の金融機関が相手にするはずがありません。
証券会社についても、大和証券SBCM株式会社を選んだことは失敗であったと言います。
失敗であったとする理由の一つとして、上場時の公募価格が意に反して低く設定されたことを挙げています。

“P証券はわが社のIPOを引き受ける主幹事証券だった。主幹事証券はリスクヘッジのため、幹事団を作って証券会社数社でIPOを行う会社の株を販売する。その後、主幹事証券はいったん自社ですべて引き受け、そのあと幹事団各社に販売する形となるので、売れ残りを避けるためになるべく安く設定しようと考えるのである。”(前掲書、P.133)

この記述も事実とは異なります。実際には、証券会社と共謀して、ほとんど実体のない会社の価値を1440倍にもつり上げて(つまり、額面5万円であったものを事実上1440倍の7,200万円で売り出しています)いるのですから。
このように、堀江さんがIPOに際して詐欺的行為の一環として利用した、有馬親娘、VC、及び証券会社の存在理由を敢えて否定しているのは、そのような存在がなくとも、上場を果たすことができる程立派な会社であったことを世間に向って強弁したいためでしょう。
しかし、現実には、有馬さんにせよ、VCにせよ、大和証券にせよ、どれ一つが欠けてもインチキ上場を果すことができなかったのは明らかです。

自分の会社を事実に反して立派な会社であったと言いつのるは、上場時のインチキ性を堀江さん自身がよく認識しているからであり、なんとしても隠蔽したいと思っているからでしょう。それにしても、堀江さんはウソのつき方があまり上手ではありませんね。

―― ―― ―― ―― ――

ここで一句。

“人前じゃ猫を三匹かぶる友” -東大阪、竹山典孝。

 

(毎日新聞:平成17年5月23日号より)

(株主様、従業員様などと急にしおらしいことを言い出した堀江さん。ミケ、ブチ、ドラなど手当りしだいに近所の猫をかき集めたりして。)


***●資料L
第1期(自平成8年4月22日、至平成9年2月28日)と第2期(自平成9年3月1日、至平成10年2月28日)の決算書の概要は次の通りです。(平成12年3月届出目論見書P.15より)

^^t
^cc^項目
^cc^第1期
^cc^第2期
^^
^1.売上高
^rr^35,324千円
^rr^103,652千円
^^
^2.経常利益
^rr^60千円
^rr^12,081千円
^^
^3.当期利益
^rr^60千円
^rr^6,797千円
^^
^4.純資産高
^rr^6,060千円
^rr^16,858千円
^^
^5.資本金
^rr^6,000千円
^rr^10,000千円
^^
^6.従業員数
^rr^1人
^rr^2人
^^/
第2期末(平成10年2月28日)においてさえ純資産が16,858千円ですので、第2期中である平成9年8月の増資前であれば純資産はこれより少ないはずです。つまり、この中には資本金が10,000千円含まれていますので、内部留保は6,858千円(16,858千円-10,000千円)より少ないということになり、1,000万円を切っています。

***●資料M

“いずれにせよ、カネの調達なんて、悩むほどのことはない。”(前掲書、P.42)
“正直に告白すれば、これは私にとって大きな失敗だった。創業メンバーの一人は当時の恋人であり、そして彼女の父親に資本金を出してもらっていた。非常に深い関係であり、簡単に切ってしまうことはできなかった。”(前掲書、P.46)
 

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