078 レバレッジド・リース
- 2005.02.01
- 冤罪を創る人々
*(エ) 「レバレッジド・リース」
1. 平成8年2月5日のことであった。中島は突然おかしなことを言い始めた。
中島:「一つ一つを見ていくと問題はないようだが、全体として見た場合、どうもおかしいんだよな。」
山根:「何がどうおかしいというんですか。」
中島:「経済的合理性というか、社会的規範というか、そういうもので見ると全体がゆがんでいるんだ。どんなに山根が、自分は間違ったことはやっていないと思っていても、法によって罰せられることはあるんだよ。」
山根:「もしや、あなた、実質課税の原則なんていうものを念頭においているんじゃないですか。」
中島:「ま、そういうことだ。」
山根:「冗談じゃない。そんなもの持ち出してきて脱税だ、犯罪だなんてやられたら、たまったもんじゃない。どうかしているんじゃないですか。」
中島:「実はこんなこと被疑者に言うべきことではないんだが、うちの内部でもいろいろと意見があってね。」
2. 中島は、検察内部で仮装売買の線では立件できないとする意見が再び出てきていることを暗に匂わせたのである。
従って、仮装売買の構成が崩れた場合にそなえて、仮に真実の取引であったとしても、脱税であると強弁しようとしているのは明白であった。
3. 私はなんとか中島を説得しようと試みた。
山根:「実質課税の原則というのを、あなたは本当にご存知なんですか。誰かさんの入れ知恵でしゃべっているんじゃないですか。」
中島:「もちろん知っているさ。オレはいささか税法には自信があるんでね。」
山根:「それは結構なことです。じゃ、お尋ねしますが、不正行為の一切入っていない事例で、実質課税の原則を根拠として脱税とされた事例があるんですか。」
中島:「・・・。」
山根:「あるはずがないと思いますが、もしあるのなら、調べてから後で教えて下さい。」
中島:「・・・。」
山根:「実質課税の原則というのは、不正行為あるいは違法行為がなくとも、取引の実態から課税上の弊害が生じている場合に、課税できるというほどのもので、あくまで徴税サイドの理屈にすぎないものです。
このようないいかげんな物差しを犯罪である脱税の根拠にするなんて、開いた口が塞がらない。」
中島:「・・・。」
山根:「ところで中島さん、レバレッジド・リースをご存知ですか。」
中島:「なんだそれは?」
山根:「金融商品の一つで、大手の会社が盛んに節税対策として売り込んでいるものです。」
中島:「フーン。」
山根「たとえば、100人から1億円ずつ集めると100億円になりますね。そのお金でたとえば航空機を購入して航空会社に貸し付けるんですよ。
100人の人達は組合をつくったことにして、手続きその他一切のことは大手の会社が代行するシステムなんです。
当初は、組合に航空会社から入ってくるリース料よりも減価償却費のほうがはるかに大きいものですから、組合としては大幅な赤字が生じます。この赤字を100人それぞれが自分達の節税に利用するわけです。
つまり、1億円の金融商品を買うだけで、利益の繰り延べができるんですよ。
このレバリッジド・リースなど、実態からすれば一人一人は単に1億円の金融商品を購入するだけで、航空機など関係ないんですね。組合といっても形だけのものだし、自分達が買ったことになっている航空機の現物を一度も見たこともないんです。
これなんか、あなたの言う経済的合理性だとか、実質課税の原則を持ち出してきたら、たちまちアウトになるんじゃありませんか。」
中島:「・・・。」
山根:「しかも、現在でも堂々と金融商品として売られており、税金の面でさえ否認されたケースはないはずです。
ましてや、更に一歩進めて、脱税と認定されたなんて聞いたことがありません。」
4. 検察当局は、何がなんでも私を立件しようとしていたのであろう。この日の議論の後でも、このテーマについては、中島と何回ともなく話し合った。
中島は私の説得に対してあいまいな受け答えに終始し、取調べの最終日であった平成8年3月4日、彼は、「山根の言っていることに嘘のないことはよく分かった。最終判断は、私ではなく、主任検事がすることになる。」と私に申し述べ、逃げてしまった。
5. 私は結局、仮装売買をタテに脱税で立件された。仮装売買の線が崩された場合にそなえて、予備的に実質課税の原則の屁理屈が用意されていた。
実質課税の原則を根拠として、脱税という犯罪に問うことができないことは税務の常識に属することである。我が国には、脱税を処罰する法律は存在するものの、租税回避行為を処罰する法律など存在しないのである。
中島を含む複数の検事が、私を立件し、しかも予備的とはいえ、常識では考えられない実質課税の原則などを持ち出してまで、私を有罪に陥れようとしたことは、検察が社会正義の砦であることを放棄し、犯罪集団に堕したことを自ら宣言するものであった。